F−「三位一体改革」

◎どうした分権会議

 地方分権の潮流は、いまや押しとどめることができないほどに高まっている。税財源の地方への移譲、補助金と地方交付税の改革。この地方税財政の「三位一体改革」は小泉純一郎首相が率先する改革であり、国家の行く末を盤石とするためにも避けて通れない。
 ところがどうしたことだろう。地方分権改革推進会議が六月上旬に小泉首相に提出する意見書の原案は、補助金と地方交付税の削減を強く求め、肝心の税財源移譲を先送りすることを提唱した。
 原案は、水口弘一議長代理の試案として出された。三位一体改革の中心は税財源の移譲である。これを棚上げした試案は、国と地方の危機的な財政状況を取り上げ、「歳出の徹底的な見直しを行ってもなお国税・地方税とも増税を伴う税制改革が必要で、税源配分は見直しはこの中で行う」とした。
 だが、今のような経済状況で増税を伴う税制改革が可能だろうか。経済成長の主力の個人消費を冷え込ませるような増税は政治的にも取りえない。試案は国の歳出削減を優先させ、分権は脇に置いてしまった。
 税源移譲については過去に、財政状況や全体の税収構造を踏まえた論議がなされるべきだとの意見が政府の税制調査会などで言われていた。今でも基本的にこの考えは変わっていない。特に財務省は分権論と並行する形で、地方への補助金削減や地方の自主財源でもある地方交付税の大幅な見直しを主張している。
 だが補助金では、省益を守ろうとする中央省庁と族議員が連携して立ちはだかり、地方交付税問題では総務省が反発、税財源移譲で独自案を突き付けている。三位一体改革は、文字通り三すくみの状態が続いている。
 こんな状態では改革などできるわけはない。それゆえ、首相は三位一体改革を関係閣僚にあらためて指示、「税財源移譲を突破口に」とも言ったのである。最も難しいところにまず手を付け全体の改革を目指す、が小泉流だ。
 水口試案に地方が猛反発したのは当然だろう。「血も涙もない」「分権会議は国の財政当局の露払いになっている」との言い分は分かる。岩手、宮城、和歌山など八県知事は税財源移譲を先送りしないよう緊急アピール、政府に申し入れた。
 水口試案は一方的に同会議に示された。「全く議論されていないことが突然出てきて、とても賛成できない」と神野直彦委員(東大教授)は内容を批判する意見書を提出している。十一人のうち、四委員が試案に反対の態度を表明した。
 分権会議は、地方分権推進委員会の後を受けて分権の処方せんを示す機関として発足した。しかし発足当初から、その先行きに疑問を呈する声は少なくなかった。財務省寄りが色濃かったからだ。
 片山虎之助総務相は「改革の本質が分かっていない」と痛烈に批判している。三位一体改革は税源移譲が中心である。試案は肝心のそこを避けている。(2003年5月15日)