A−「市町村合併」

◎小規模自治体の不安は切実だ

 市町村合併をめぐる小規模自治体の動きが活発になっている。政府が主導する合併で、果たして自治が保たれるのか、分権時代の今日、広義の住民福祉を実現するため別途方策があるはずだ。こんな疑問が自治体のみならず、研究者の間でも広がりを見せている。
 三月九日、東京で開かれた「もう一つの自治制度改革シンポジウム」で総合司会を務めた大阪市立大学の加茂利男教授は、「こんな重要な時期に研究者は何も発言しないのかと多くの声が寄せられた」と、シンポジウム開催のきっかけを紹介した。
 シンポジウムは昨年十一月、地方制度調査会の西尾勝副会長が、政府が進める市町村合併の特例措置が期限切れとなる二〇〇五年三月までに合併しない小規模自治体の権限縮小や他自治体への編入を内容とした私案を公表したことに反発して急きょ開かれた。
 西尾私案は、地方制度調査会が近くまとめる地方制度の抜本見直しのたたき台となるものだが、私案が出されて以来全国町村会など自治体関係団体、研究機関のほか、関西経済連合会も「関西モデルの提案」を発表するなど波紋が広がっている。
 「関西モデル」は、地域の地理的・歴史的特性を生かせる地方制度として課税権を持った共同体制度(郡制度)や「州制」の創設、基礎自治体と広域自治体との事務配分の自由化―を求めている。また、分権時代に合わせて、国の役割を限定するほか税源移譲と財政調整制度の改革を柱にしているのが特徴だ。政府の方針とは明らかに違う。
 道州制論では北東北の青森、秋田、岩手三県の連携が着実に進んでおり、市町村という基礎自治体を超えた模索も現実のものとなっている。
 合併を審議する自治体の協議会は三千二百余の市町村の半数を超える自治体で設置されている。特に、西尾私案が出て以来、雪崩的に増えている。政府の政策誘導としての合併路線に疑問を感じながら、協議会を発足させたところも少なくない。
 市町村合併の最大の眼目は国と地方の財政改革である。ところが、昨今の合併論議は自治・分権をわきに置いたような雰囲気すら感じさせる。そして、特例措置のタイムリミットで、財源のやりくりができずに、自らの予算編成に苦しむ自治体の窮状を見定めたように合併圧力が迫っている。
 去る二月下旬、長野県栄村で開かれた「小さくても輝く自治体フォーラム」は、小規模自治体の命運をかけた集会の様相を呈した。国土を支えるのは地方であり、その大部分を小規模自治体が構成する。合併に拒否反応を打ち出しているのは、全体から見れば劣勢だが、真の地方自治を実現するためには十分耳を傾ける価値がある。
 二〇〇一年四月、地方分権整備法が施行され、曲がりなりにも国と地方が「上下主従」から「対等協力」の関係に移った。市町村合併は、その真価を問うことを忘れてはならない。(2003年3月10日)