15)−「基地返還と代替措置」

◎遊休施設返還に遠慮は無用

 神奈川県横浜市にある米軍基地の返還に伴う米軍池子住宅地区での住宅建設計画に反対、辞任した同県逗子市の長島一由市長が三選された。長島氏は昨年十二月再選されたばかりだ。対立候補も米軍住宅計画に反対だったため争点がぼやけ、長島氏の任期途中の辞任という政治姿勢を問う形になった。しかし選挙結果は、基地返還の条件となった米軍住宅建設が日米地位協定上適切なのか。日本政府が在日米軍基地の在り方で民意を十分認識しているかなどを浮き彫りにしたと言える。
 池子住宅地区は逗子市と一部横浜市に属する。面積は二百九十ヘクタール。ほとんどが逗子市で、横浜市部分は13%にすぎない。米軍弾薬庫があったが一九七七年に弾薬が撤去され、その後米軍横須賀基地に空母が配備されて以来、米軍住宅建設が持ち上がり約十年にわたって逗子市民を二分する混乱が続いた。九四年に国と神奈川県、逗子市の三者合意が成立、約八百五十戸の住宅が建設された。
 問題となった米軍住宅建設予定地は横浜市域だが、長島氏は「三者合意は池子地区で新たな住宅建設をしないと約束した。池子は一体」との立場だ。県も八七年に横浜防衛施設局が作成した環境影響予測評価書(環境アセスメント)を基に国の対応を批判している。これに対し国は、建設予定地は横浜市域であり、合意に拘束されないと話はかみ合わない。ただ横浜市は三者合意に関与してないとして明確な態度を表明していない。
 返還されるのは横浜市の根岸住宅地区と深谷通信所、富岡倉庫地区の全部と上瀬谷通信施設の大半の施設で、合計三百ヘクタール余に及ぶ。七月の日米間協議で基本合意した。根岸住宅は終戦直後に建設され老朽化が激しい。他の三施設も遊休化しており、神奈川県や横浜市は返還を求めていた。
 計画によると、根岸住宅地区の住宅約四百戸を移転新設、新規の約四百戸を建設する。高層化された現在と同規模の米軍住宅ができるわけだ。
 住宅の老朽化に加えて米海軍横須賀基地の事実上の母港化で神奈川県下での米軍住宅不足も深刻だったという。懸案の住宅問題を解決するため遊休化した施設を返還するのが米側の本音だ。
 米側は住宅問題の解決を優先させ、日本側は基地返還を勝ち取るといった図式だ。だが、住宅建設を条件に遊休化した基地返還には疑問が残る。
 日米地位協定第二条は個々の施設の使用権限は個別の取り決めで定めているが、一方の政府の要請があれば、再検討し返還合意もできるとうたっている。施設が協定の目的ため不要になれば、米国は返還しなければならない。平たく言えば、役に立たなくなった米軍施設は返さなければならず、日本政府もそれを要求しなければならないということだ。
 在日米軍基地の整理・縮小が迫られている現在、遊休施設の返還は具体化されなければならない。政府の対米姿勢が問われる問題である。(2003年9月16日)