L−「国民保護法制」

◎不安にこたえる法整備を

 有事の際に国民をいかに守るかを定める国民保護法制をめぐって政府の関係閣僚と知事の意見交換が行われた。いったん有事が起きた場合、知事に求められる責任の大きさは計り知れない。地域住民に最も身近な知事の声は最大限尊重されなければならないことは言うまでもない。
 その意味では、閣僚と知事が一堂に会して話し合ったことは評価できる。国民保護法制は来年の通常国会で法整備がなされる。時間はそう多くはないが、政府は今回だけでなく、今後とも最大限地方の意見を聞く機会を持つべきだ。
 意見交換は、今年六月成立した武力攻撃事態対処法など有事法制三法の後を受けて、緊急時に肝心の国民の生命、財産をどう守もるかを法的に明確にするために役立てようと開かれた。
 政府の国民保護法制の概要は地方公共団体の役割について、知事や市町村長の責任・権限を示しているが、権限がどこまで及ぶのか明確でない。例えば「武力攻撃災害への対処」では、知事は総合調整するとなっているが、宮城県の浅野史郎知事は「どの程度の法的拘束力があるのか」をただしたし、住民の避難や救援については岐阜県の梶山拓知事が「警察や自衛隊を実質的に指揮・監督できないと間に合わない」と問題を提起した。
 テロや不審船、弾道ミサイルへの対応でも知事の意見は活発だった。特に弾道ミサイルは短時間で着弾する。政府の指示を待つ時間はないも同じだ。福岡県の麻生渡知事は「国の指示がなくても住民を守れる仕組みが必要」と指摘した。国の責任ですべてに対応できるはずもないし、的を射た意見と言える。
 国民保護法制を論ずるとき、肝に銘じたいのは住民保護が脇に追いやられ、多大な犠牲を蒙った沖縄戦の経験である。島しょ県の沖縄は他県への避難ができない。稲嶺恵一知事は、ライフライン、食料の確保、避難誘導などを十分考えるよう訴えた。米軍基地が集中する沖縄は有事の際、さまざまな権利制限が集中する恐れがあるからだ。
 県や市町村は、有事の最前線である。その第一線の知事が今回の意見交換会で発言できたことは、想定されることの、ほんの一部でしかない。
 県独自で有事を想定した住民避難の手引書をまとめ図上訓練を行った鳥取県の片山善博知事は訓練の一部を説明した。それによると、戦闘地域から避難する住民と、逆に戦闘地域へ向かう自衛隊の交錯で道路が混乱するとなっている。こんな事態は沖縄戦で経験済みだし、容易に想像もできる。国民保護法の主要部分である住民避難ひとつ取っても法整備がいかに難しいか分かる。
 もちろん有事に当たって知事の権限に限界があるのは当然だ。それ故、あらゆる有事を想定し、政府と地方自治体の役割を明確にする。そのために事前の関係機関の周到な連絡調整と準備は欠かせない。法的整備の善しあしは、その結果である。(2003年8月10日)