K−「道路公団総裁の資質」

◎旧国鉄改革の教訓生かせ

 ただでさえ不透明さが漂う小泉純一郎首相の改革の現実を象徴するような日本道路公団の藤井治芳総裁の言動に、国民はあきれ返っているのではないか。即刻辞めるべきだとの声が日に日に高まっている。だが、本人は二十五日の記者会見で「国の機関を預かった以上、精いっぱい仕事をする」と、テコでも動かない様子だ。
 藤井氏は、あれやこれや釈明しても疑惑は一向に晴れないことが分からないのだろうか。居座ること自体が道路公団の伏魔殿ぶりを国民に知らしめるのである。
 首相官邸や国土交通省も総裁更迭の腹を固めたようだが、首相は他人事のような答弁をしないで、一日も早く更迭を決断すべきだろう。
 小泉首相は、膨大な赤字を垂れ流しながら高速道路建設の必要性を説く道路関係四公団の改革のため民営化推進委員会を発足させた。そしてこの委員会が昨年暮れ、民営化の道筋を盛った最終報告をまとめている。
 ところがそれから半年以上も過ぎたにもかかわらず、具体化の作業は進んでいない。進まないどころか、むしろ改革に逆行するような動きが目立った。問題点と指摘された財務内容と、その説明がそれだ。
 道路公団が先月公式に発表した財務諸表は五兆七千七百億円の資産超過。一年前に作成した財務諸表の債務超過から一転して、いわば「黒字」となったのである。公団が民間基準とした財務諸表だが、取得原価の資料がないなどとして、今道路を造ればこれだけかかると時価方式を採用するなど企業会計とは言えない奥の手を使ったという。
 疑惑をさらに明確にしたのが内部告発だ。藤井氏が民営化阻止作戦を説明した秘密会合の議事録が流失、民営化問題に携わっていた幹部職員が左遷された。左遷された職員の一人がこの八月号の月刊誌に公団の内部事情を寄稿した。
 藤井氏は今月中旬の国会で内部告発舎を激しく批判したが、内部作業の事実は認めながら「それは勉強会で報告は受けていない」と突っぱねている。そして二十五日の会見で藤井氏はあらためて債務超過の財務諸表の存在を否定、辞任の意向がないことを強調した。
 藤井氏は一九六二(昭和三十七)年、旧建設省(現国土交通省)に入省、道路畑を中心に歩み、事務次官を経て二〇〇〇年、道路公団総裁に就任した。
 入省以来、道路畑のエリートとして高速道路建設や東京湾横断道路建設など全国の高速ネットワークの整備に主導的な役割を果たしている。同時に自民党建設族とのつながりも深く、特に、建設族のドンと言われた金丸信・元副総理との関係は密で、政治状況をにらみながら行動することでも有名だった。
 思い起こせば、旧国鉄の分割・民営化では当時の中曽根康弘首相が改革に反対する国鉄総裁を更迭、民営化に弾みをつけた。求められるのは小泉首相の決断だけである。(2003年7月26日)