J−「日米地位協定」

◎運用見直しでは何ら解決しない

 米兵の犯罪が起きる度に問題になる日米地位協定の見直しが一向に進まない。日米合同委員会での協議に加えてこの七月、東京とワシントンで米兵容疑者の司法手続きをめぐる日米協議が行われたが、議論は平行線のままだった。
 米軍基地の提供や運用などを定めた日米地位協定は一九六〇年、新日米安保条約と同時に調印された。
 なぜこの地位協定が問題なのか。
 地位協定は米軍施設・区域外の犯罪について、公務の場合を除いて日本側が裁判権を持つ属地主義の原則を部分的に導入している。ところが、日本側に裁判権がある場合でも被疑者の身柄が米側にあるときは、起訴されるまでは米側が引き続き被疑者の身柄を拘束することになっている。
 裁判権を認めながら捜査権は米側が優先する。この協定が問題化したのは九五年沖縄で起きた少女暴行事件だ。当時、県や議会が再三、容疑者の身柄引き渡しと地位協定の抜本的な見直し求めた。日米両政府も事の重大性に気付き、殺人や強姦といった凶悪犯罪について米側が「好意的考慮を払う」という運用の見直しをするとした。
 運用の見直しは一定の前進ではあるが、あくまでも米側にゲタを預けた決着の仕方である。その後の事件でも沖縄県警の被疑者の引き渡し要求は米側の厚い壁に突き当たっている。このため、沖縄県は二〇〇〇年八月、十一項目にわたって地位協定の改定を求める要請を行った。
 一九七二年五月の沖縄復帰以降、米軍構成員による犯罪は累計で五千件を超え、うち一割強が凶悪犯罪だ。在日米軍基地のある東京、神奈川、青森、山口、長崎などでも、程度の差はあるが米兵の犯罪が起きている。
 沖縄県は先ごろ、稲嶺知事らが米軍基地所在の都道県を訪ね地位協定改定の協力を要請した。県首脳がこの種の要請行脚をするのは初めてだ。
 地位協定の問題は犯罪に限ったことではない。環境問題も重大だ。自治体が基地内への立ち入り調査は制約があり、返還施設の汚染浄化義務も明記されていない。
 地位協定の抜本見直しに日米両政府は否定的で、あくまでも運用面での対応しか考えていない。今月行われた地位協定運用改善の新たなルールづくりの協議でも、取り調べの段階での通訳や弁護士の立ち会いが焦点になった。容疑者の起訴前の引き渡しを求める日本側に、米側は人権保障を突き付ける分かりにくい形の展開になっている。
 多少の光明はある。衆院沖縄・北方特別委員会は今月三日、日米地位協定の見直しを早急に検討するよう求める決議を可決した。〇一年七月の衆院外務委員会に次ぐ決議だ。東京都議会も協定の抜本的見直しの意見書を可決するなど反響は表れている。地位協定は不磨の大典ではない。調印から四十三年もたつ。若干の運用見直しはあったにしろ、旧来のままでいいはずはない。(2003年7月13日)