【参院補選沖縄選挙区】(07年4月22日投開票)

当選 島尻愛伊子 諸新 自公   255,862
    狩俣吉正  諸新 民共社国 228,844
    金城宏幸  無新        9,142
   ★投票率47・81%(70年の国政参加選挙以来最低投票率)

■巧妙に仕組まれた「直轄選挙」

 沖縄の全県選挙は昨年11月の知事選に続いて、またしても「保守」の勝利となった。
 今回の参院補選で注目したいのは、「保」「革」のいずれが勝ったというものではない。投票率が70年の国政参加選挙以来の全県選挙で47・81%と、50%を下回ったことだ。
 こんな低い投票率は沖縄で初めてだし、選挙のたびに印象的だった「政治の風」が驚くほど吹かなかった。
 既に県民の過半数を超えた「復帰後世代」と豊かさを追求する県民の率直な気持ちが、てこでも動きそうにない基地問題からの離脱を浮き彫りにしたかのようだ。
 自公推薦の島尻が低投票率でも勝てたのは、「家庭」や「子育て」といった一般社会が身近に考えている、ごく当たり前の主張を粘り強く訴えたことが大きい。
 仮に島尻が、これまでの保守系候補のように、「沖縄の経済的豊かさ」を訴えたら、おそらく勝利はおぼつかなかっただろう。
 「経済的豊かさ」は、どんなに言葉を飾っても中央直結の思考が露骨なまでに表れ、沖縄の「自立」は単なる付け言葉としてしか伝わらない。つまり、有権者は、何の新味もない保守の訴え
としか受け止めなかっただろう。
 自公の作戦は、見た目にも政治活動家とは思えない島尻の客観的印象を有権者に植え付けることに成功した。
 論者が懸念するような「国政で通用するか」といった見方は、一般有権者の心にはすんなりとは落ちない。無党派層を中心とした多くの有権者は、1人の新人の女性参院議員に国政を動かす
ような力を期待してはいない。
 国政に庶民的な、あるいはごく普通の主婦的の感覚を送った方がいいという心理が働いたようだ。政治好きが唱える政治論を聞き飽きた多くの有権者が今回の結論を導き出したのである。
 一方の反自公の統一候補狩俣はどうだったか。
 狩俣は、連合沖縄の会長で、いわゆる組合のボスだ。
 いかつい狩俣と、4人の子育てに励む島尻の対決の構図は、「組合のボス」と「主婦」の戦いと映る。
 組合・団体のリーダーである狩俣には組織票が期待でき、運動体としても組合の機動力は日常的に政治的行動の経験を積んでいる。
 政党の枠を超えて人選する際にも、最初から有力候補として位置づけられる。
 しかし反自公で結集した統一候補は、本来持っている主義・主張を前面に打ち出せない。満遍なく推薦団体の言い分に耳を貸さなければ差なければならないからだ。ゆえに、明確で説得力の
あるスローガンをつくりにくい。
 今年の統一地方選と参院補選は、従来とは比較にならないほど国政への影響が問われた。発足から7カ月の安倍政権の路線を問う色彩も濃かった。
 全国的なレベルで見れば、統一選は分権改革の先行きを占うものであり、補選は「憲法」「教育」「安保」、そして「格差」を問うものだった。
 沖縄の補選でいえば、寄り合い所帯の革新が共同歩調を取れるのは「基地問題」。生活・福祉・人権問題もあるが、それらは基地問題と不離一体であり、基本は「基地」だ。
 従来の革新の戦術は、基地問題を軸に、それにつながる形で生活、経済振興をラインアップした。今回もその方式を踏襲するはずだった。
 ところが選挙戦が始まってみると、有権者は基地問題よりも経済、生活、格差問題等に関心を示した。在日米軍再編問題を軸に、基地問題で勝負に出る作戦を描いていた狩俣陣営は急きょ、
作戦を変更、軸足を「格差問題」に切り替えざるを得なかった。
 この、新たな選挙戦術への転換は、陣営の戸惑いと腰の定まらない動きとなった。そんな候補者に「変化」を期待する一般有権者が集まってくるはずがない。
 
 ところで気になるのは「史上最低の投票率」である。
 地元紙の事前の世論調査では、「投票に行く」が8割を超えている。しかし、蓋を開けてみれば、有権者の半分も投票所に足を運んでいない。
 最初から勝敗がはっきりして信任投票のような選挙では、有権者が選挙自体に無関心になることはよくある。沖縄補選が、そんな選挙でないのは明らかだ。
 大詰めを迎えている在日米軍再編、雇用、景気など県民の生活が直面する問題は多々ある。
 普天間飛行場の移設は、基地問題の象徴的なものとして県民の関心も高く、県も地元の名護市も国との間で綱引きをしている。
 沖縄の基地問題が大きな転換点に近付いている状況を、有権者がどう判断するかは、今後の日米関係を占う意味でも大きな争点となるはずだった。
 こんな問題を抱えながらの低投票率をどう理解すればいいのか。
 一つは立候補した人物の人間的魅力だ。
 離党したとはいえ、元民主党那覇市議の島尻と、沖縄の選挙で本土復帰以来革新陣営が志向して来た「革新共闘」代表としての狩俣に、有権者が新鮮味を感じなかったのは前述の通りだ。
 そして、県民の冷めた意識を夏に本番を迎える参院選に向けて、何としても勝利を勝ち取りたい安倍首相は、異例とも言える2度の沖縄入りをした。しかも相手候補の狩俣の出身地である宮
古島市で島尻支持を訴えた。
 島尻の勝利は安倍の熱意が通じたともいえるが、低投票率の一因と見ることもできる。
 自民党幹事長の中川秀直が、最後は沖縄に張り付いて陣頭指揮したのも、陣営には頼もしい存在だった。が、自民党本部の直接指導、中央の直轄選挙と有権者の目に映ったことも間違いない

 こんな中央直轄の選挙が有権者離れをもたらした二つ目の理由といえるだろう。
 選挙は「勝てば官軍」だ。 勝たずして目的は達せられない。水面下の動きも含めて選挙戦の期間中、自民党は普天間問題を封印した。要らぬ刺激を避けるためだ。 
 国政がらみの沖縄の選挙は、年を追って革新の退潮を印象付ける。全体を束ねる魅力あるリーダーの不在ということがあるかもしれない。同時に、革新陣営が旧態依然とした組織頼み、組織
代表の域を脱しきれない現実もある。
 組合の組織率は年々低下する一方で、そのことは春闘、メーデーを見れば明らかだ。組合意識の希薄化が当たり前になっているにもかかわらず、革新諸団体の頭の切り替えができないようで
は多数の賛同は得られない。
 保守陣営に真っ向から勝負を挑むのであれば、組合色の薄い組織外から候補者を探す必要がある。 (文中敬称略  07年4月23日)