2009月18

【最後の原稿】

◎金澤教授の死を悼む

 横浜国立大学教授の金澤史男さんが急逝した。55歳という若き教授の死を聞いて、どう言葉に表していいか分からない。ただ言えることは、財政学の世界でかけがえのない論客を失ったということだ。死因は大動脈解離だった。
 金澤さんは亡くなった16日、大学で予定通り昼過ぎから財政論の講義を済ませ、2時半に研究室に戻ったところで容態が急変した。救急車で病院に運ばれたが救命かなわず息を引き取ったという。
 研究室で助手を務める人の話では、金澤さんは普段から血圧が高めで気をつけていたが、このごろは「還暦」を話題にしながら雑談に興じていたという。1週間ほど前から体調は万全ではなかったらしい。
 財政学の専門家として、昨年秋以降の世界的な経済危機に関する仕事が多く、執筆活動も多忙を極めていた。
 実は私も金澤さんに原稿執筆を依頼、1週間前に原稿が届いたばかりだった。多忙な金澤さんだから、私のところに届いた原稿が「最後の原稿」だったとは思えないが、それでも金澤さんの体に無理をかけたのでないかと気をもんでいる。

 私が金澤さんに頼んだ原稿は、昨年秋のリーマン・ショックを機にかつてない苦境に追い込まれた日本経済の下で、地方自治体の想像を超える税収減がもたらす影響を、財政の専門家の目で分析・検証する特集「税収激減」である。
 金澤さんはこの中で、地方財政危機を自己責任化するモラル・ハザード論だけでは危機の構造的要因は見えてこないと指摘した。そして挙げたのが、バブル経済崩壊後に政府が取った政策減税など政策的要因が地方財政を一層深刻にしたことである。
 さらに、対米貿易不均衡の是正に苦慮した政府が、内需拡大の公共投資基本計画の実施主体として地方を最大限動員したこと、次いで三位一体改革が地方のトータルバランスを大きく崩したことを鋭く突いている。

 私は、金澤さんとともに日本自治学会に名を連ね、言葉に尽くせないほどお世話になった。原稿依頼も、そんな関係からの私の甘えだったかもしれない。
 金澤さんの原稿は、自治・分権問題の政策研究情報誌「地域政策」(季刊=三重県発行)の夏季号に掲載される。金澤さんが私どもに残してくれた地方財政問題の「遺書」だと思っている。
 
6月下旬に刊行されるので、是非とも皆さんに手にとって目を通していただきたいと思っている。
 合掌。(尾形)


おことわり:金澤教授は「救急車の中で息を引き取った」と18日の配信で記しましたが、「病院で息を引き取った」の誤りでした。ご家族および関係者の皆さまにご迷惑をおかけしました。=6月23日訂正)