【総務相辞任と分権改革】

◎予定消化の分権推進本部会議

 麻生首相は12日、国会で開いた政府の地方分権改革推進本部で、国の直轄事業負担金制度を積極的に見直すよう各閣僚に指示した。
 直轄事業費の地方負担については、地方負担の計算が不透明でかつ自治体への説明がない、として全国知事会などが反発、国に抜本的な見直しを強硬に申し入れている。
 本来なら、首相は直轄事業の大半を占める国交省が関連する公共事業のあり方に少しでも言及すべきなのだが、それはなかった。出先機関の庁舎建設費、人件費など、国から地方に回される不明朗な「請求書」は数え上げたらきりがないほどだ。
 総選挙を控えて、地方の不満がエスカレートする一方だったことを考えれば、こうした問題に具体的に触れる必要があったにもかかわらずである。

 通常国会の延長が決まってから、麻生首相は都議選に立候補している自民党公認候補の応援に走り回るなど、明らかに総選挙を意識した行動に出ている。分権改革推進本部の会合も数日前の今週8日、首相と鳩山総務相の会談で急に決まったものだ。その鳩山氏が辞任した。
 もともと、推進本部の会議は分権改革に対する内閣の積極的な姿勢を示す狙いからセットされたもので、都議選応援と同様、総選挙を念頭に置いたものであることは間違いない。
 にもかかわらず、ごく当たり前の指示で終わった背景を推測すると、分権改革に対する政府の熱意のなさと、日本郵政のトップ人事問題が見えてくる。特に、郵政問題のインパクトは大きく、分権問題は脇に追いやられてしまった感がある。
 この日、推進本部会議は閣議に先立って開かれた。
 日本郵政の西川善文社長の辞任を求める鳩山総務相の言動は日に日に激しさを増していた。ところが、首相が自ら問題の収拾に乗り出す様子が見られなかった。


 この日、首相は午前、午後と2回、鳩山氏を呼び最後の調整を試みた。結局、首相は鳩山氏を説得できず、本人の辞表提出という形は取ったが、事実上の更迭だった。
 ここにいたるまでの首相の気持ちを推し量れば、首相は、閣議もその前の分権改革推進本部会議も、「心ここにあらず」ではなかったか。
 日本郵政のトップ人事に首相が無頓着だったとは考えにくい。問題が表面化して以来、首相は閣内はもとより、与党内の考えをあらゆる方法で探ったことは間違いない。特に、この数日は最後の決断をどうすべきか相当悩んだと推測できる。

 首相が盟友の鳩山氏の説得に動かなかったのは、弱小派閥の麻生氏が首相まで上り詰めることができた最大の功労者が鳩山氏だったからだ。首相が動かなかったというよりは、「動けなかった」と見たほうがいい。鳩山氏に対する恩義が判断を鈍らせたのだろうが、そんな政治判断は別次元の話だ。
 こんな複雑な思いを抱えながら首相は、分権改革推進本部会議に臨んだ。本部長は首相だが、分権改革の実質的な指揮官は鳩山総務相だ。郵政問題がなければ二人三脚の分権論を展開したはずだが、互いに気まずい思いの2人に連携プレーを演出してみせる余裕は全くなかった。

 結局、全閣僚が打ちそろった推進本部会議にもかかわらず、可もなく不可もない、ごくありふれた「首相指示」の会合で終わった。予定通り会議を済ませたということで、勝敗の帰趨が決まったプロ野球の消化試合を見せられたようだ、と思う首長が少なくないのではないだろうか。

09612日)