6月3日

◎政局夏の陣

 会期末を迎えた通常国会は728日まで、55日間の延長が決まった。政治部記者にとって、政局から目を離せない日がいよいよ始まった。早朝から深夜まで記者が駆け回る姿が手に取るように想像できる。
 政治部記者にとって、政局は何にも増して難しく、かつ気持ちを高揚させる。有力政治家の一言一言に政治の先行きを予想し、それぞれのシナリオを思い描く。「一寸先はヤミ」だから、シナリオどおりに事が進まないのは当然だが、シナリオは日々、目まぐるしく変わる。その都度、頭の回線を切り替えなければならないから、気をつけていないと、その日その日の現象に追いまわされ、肝心の始まりの部分を忘れてしまう。政局報道に沈着、冷静な対応が求められるのは、このためだ。
 ところでこの「政局」だが、昨秋のリーマン・ショック以来、麻生首相は「政局より政策」の言を繰り返して緊急経済対策を矢継ぎ早にぶち上げ、野党の追及を「百年に一度の経済危機」を盾に肩透かしを食わせ、潜り抜けてきた。つい先日成立した本年度の補正予算は、思いつくことは何でも寄せ集めた15兆円にもなんなんとする超大型補正である。

 首相が言うとおり、昨年暮れからの永田町、霞が関は政局をひとまず脇に置いて政策にまい進したかに見える。だが、それは表面的な事象に過ぎない。姿かたちを変えた高度な政局と見ることができる。
 野党の言い分に立つわけではないが、国民の信を得ていない内閣が今回のような「有事」に的確に対応できるかと言えば、「ノー」である。政治空白を理由に、解散に踏み切らなかったツケが、皮肉にも政治空白をつくってしまったことを思い出せばいい。
 国会延長で補正予算関連法案と海賊対処法案や国民年金法改正案など重要法案をめぐって、与野党対立はこれまでにも増して激しくなるだろう。それゆえ、政局取材は最大のヤマ場を迎える。政治部記者の見識・資質が問われるような場面が多々あるかもしれない。

政局に関するニュースは、政治の舞台裏を知ることができて、政治に縁遠い人にも、へたなテレビドラマより数段おもしろい。政治家の人となりも分かって、永田町と霞が関の相関図も想像できる。
 だが、このおもしろさが曲者だ。面白さを求めるのであれば、それにふさわしいメディアを手にすればいい。主要メディアに求められるのは的確な政治指針を示すことだ。それが国民を誤りなき選択に導く大切な道である。(尾形)