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◎新幹線考

 仕事の都合で東海道新幹線をよく利用する。名古屋までのノンストップと各駅停車を組み合わせているが、特に急がない場合は各駅停車の「こだま号」を利用することにしている。
 名古屋までノンストップだと首都圏からは1時間ちょっと。各駅停車だとその倍の時間がかかる。こだまは駅ごとに数分程度の停車時間があって、昔、中高校時代の通学列車に乗っていたころを思い出す。時間調整中に特急や急行列車から追い越されるさまは、新幹線でも同じようだ。
 こだまを利用する時は、これからの仕事に必要な資料の点検・読み返しをするが、それが不要なときは、これと思った本を持ち込んで時間を過ごすことにしている。よく読む本はドキュメンタリー・ノンフィクションや時代小説が好きだ。読み残していた池波正太郎の「鬼平犯科帳」シリーズには、不思議なくらいのめり込んでしまった。
 あらためて言うまでもないが、池波作品の魅力は時代考証もさることながら、人間模様がいい。食通の作家らしく、食べ物もストーリーの重要な一部で、欠かせない意味を持たせている。そんなことに納得しながらのんびり過ごす新幹線の旅は、「ひかり」や「のぞみ」ではできない。「こだま」を使うのも、仕事の合間の有効利用と考えている。

 新幹線は高速交通体系の主役として登場した。昭和39年の東京オリンピックに間に合わせて完成した東海道新幹線は、その後次々と整備された新幹線や高速道とともに国土軸を形成、経済大国の屋台骨を担った。
 新幹線が計画されながら、建設費が工面できず完成が延び延びになっている整備新幹線は、財政問題からくる公共事業抑制の流れの中で、高架橋や駅舎の着工といった部分工事が行われているだけで、地域住民の要望に応える供用開始はいつになるか定かではない。
 新幹線利用が仕事や生活の一部にすっかり組み込まれた私たちから見ると、新幹線なしの日常生活は考えられない。冷めた言い方をすれば、高速交通体系の中で、慌しく日々を送っているのが私たちなのだ。だから、同じ新幹線でも、各駅停車の「こだま」の効用を見出したのかもしれない。
 時たま、ローカル線に乗ることがある。電化されていない単線が静かな田畑や山の間を縫うように走っている。窓外の景色は、「じっくり見てくれ」とばかりにのんびりと流れていく。車内は、着飾ることもない普段着の人たちが、屈託ない表情で話題に興じている。

 そんな光景を見ながら、駅の売店で買ったつまみを口にしながら飲むお酒が腹にしみた。(尾形)