【厚労省分割の挫折】

◎やっぱり1人芝居だった

 こんなことだろうと思っていた。厚生労働省の分割・再編のことだ。
 麻生首相が与謝野経済財政相に指示した、厚労省の組織を仕事に見合った形に分割する方針は、自民党内だけでなく閣僚の間からも意図が分からない、拙速だと見放され、わずか1週間で「お払い箱」となってしまった。
 先日(26日)、首相指示の危うさ、霞が関の官庁全体に及ぼす影響を挙げて、その脆弱さを本稿で指摘した。厚生労働行政にかかわる一昨年以来の懸案、不始末を考えれば、厚労省の組織を今日的な課題に見合ったように再編しようというのは確かに傾聴に値する。
 だが首相指示は、あまりにも唐突過ぎた。将来の国家ビジョンを話し合う「安心社会実現会議」で有力メンバーが提案したと思ったら、閣内や与党とのすり合わせもないまま、すぐさま鶴の一声のように与謝野氏に下された。そして、話は近くまとまる「骨太の方針2009」に盛り、総選挙ではマニフェストとして大いに国民にアピールすると、あたかも行程表が決まったかのような印象を与えた。

ところが、である。首相指示で与謝野氏が動き出したとたん、政府・与党内の戸惑いが表面化した。標的にされた舛添厚労相はあからさまに首相を牽制したし、幼稚園と保育園の一元化問題を突きつけられた塩谷文科相も「一緒にすればいいというものではない」と反発、族議員がうごめく自民党内は首相指示に全く聞く耳を持たなかった。
 華々しく打ち上げた厚労省再編・分割だったが、これでは一歩も進まないどころか、首相が強気に出れば周りをすべて敵に回すことになる。党内基盤が弱く、内閣支持率も低迷する首相にそんな力はない。あっさり、前言を翻した。
 首相によると、国民の安心安全の立場から「再編を検討したら」と言ったのであって、最初から「(再編に)こだわっていない」ということらしい。反発、物申した各閣僚も、首相を困らせまいと、話のつじつまを合わせる言い回しで煙に巻いた。首相の無定見を批判されても仕方がない。

 首相指示とはそんなに軽いものなのか。
 「骨太の方針」「マニフェスト」まで想定させた首相の「御下問」が、「指示」でなくて何なのか。「こだわらない」などと逃げるようなら、最初から言わなければいい。
 どうも、麻生首相は「思いつき」発言が多い。道路特定財源や定額給付金問題でもそうだったし、分権改革の取り組みについても総務相経験者とは思えないような言動があった。「深く考えないで言ってしまうことがある」と政府筋はかばうが、トップリーダーたる者が口を滑らすことはあるべきではないし、許されない。
 政治家、とりわけトップリーダーに欠かせないのは「経綸」である。経綸とは「国家を治めととのえること」だ。経綸なき政治は国民を泣かすことになる。

09530日)