【厚労省分割案】

◎1人芝居で終わらないか

 麻生首相が与謝野財務相に厚生労働省の分割を指示したのは、年金問題や外郭の特殊法人の不祥事が相次ぐ同省の業務を「雇用・年金」と「医療・福祉」に分け、国民の目に分かりやすい組織に再編するというものだ。近くまとめる「骨太の方針2009」にも盛り込み、自民党のマニフェストとして総選挙を戦い抜く上での強力な武器にするらしい。
 厚労省の業務は、霞が関の中でもっとも国民生活との関連が深い。それだけに、連続する不祥事は、単に社会保険庁を新組織にするだけでは説得力に欠ける。その上、政権奪取を狙う民主党が最大の攻撃目標としている分野が厚生労働行政だから、対処療法的な政策では勝負にならない。
 だが、目先の問題として厚労省分割は関心を呼ぶが、中央行政全体として見た場合どうなのかは別問題である。

 性格が異なる旧厚生省と旧労働省を統合することに対しては、省庁再編の中でも異論が多かった。
 1999年の「中央省庁改革関連法」に基づいて、20011月に実施された省庁再編で、これまでの1府21省庁を1府12省庁に再編統合した。縦割り行政の弊害をなくし、かつ内閣機能を強化して国の事務・事業の効率化を図る狙いがあった。その中で厚労省が誕生したのである。
 年金、医療、雇用、外郭団体の不祥事などで国民の厚生労働行政に対する不満・不信は参院選で自民党の惨敗につながった。政治主導を狙った省庁再編だったが、現実は、1人の閣僚が全体業務を担うには荷が重すぎたことも間違いない。
 厚労省分割で国の行政の弱点が消えるわけではない。国土交通省や総務省も再編で巨大官庁として生まれ変わった。特に国交省は、建設、運輸、国土、北海道開発の4省庁が統合してできた、国の公共事業の大半を手の内に収めるスーパー官庁に生まれ変わった。総務省は、自治、郵政の2省と総務庁に総理府の一部を吸収して誕生した。
 国交省は今、出先機関問題と直轄事業負担金問題で大揺れだ。厚労省の分割が具体化に向けて動き出せば、国交省や総務省のあり方が問われる可能性は高い。

 現在の省庁体制がスタートした直後、当時参院議員で自民党竹下派の大幹部だった旧建設省OBのI議員(故人)から直接聞いたことだが、同氏は後輩の官僚に「組織のミシン目はつけておけ」と命じていたという。つまり、国交省が再び解体される事態を想定して準備をしておけということである。
 麻生首相の厚労省分割の指示は、I氏が想定していた政治状況の変化が今表れたと見て間違いない。
 民主党の代表交代で、解散総選挙の日程が真実味を帯びて取りざたされるようになった。下げ止まったとはいえ、麻生内閣の支持率は上向く気配がない。首相は矢継ぎ早の経済対策に加えて、国民の目を引くような魅力的なマニフェストを考えているようだが、「1人芝居」にならないか。

09526日)