09年522

◎新型インフル

 新型インフルエンザが不気味な広がりを見せている。
 当局の水際での検疫態勢をいとも簡単にくぐり抜けたウイルスが、街中を浮遊しているのだから防ぎようがない。

 熱が平常より少し高いだけで新型インフルを疑われ、病院や診療所に行くことにも「待った」をかけられるのだから、日常のごく当たり前の生活ができなくなる。あたかも、悪性のインフルが街中を闊歩しているがごとき目で見られている。
 つまりは、人ごみを避けないといつインフルが飛び込んでもおかしくないと言われているようなものだから、よほどの「覚悟」がないと身動きが取れなくなる。病気がまん延し始めた地域では学校が休校になったり、幼稚園・保育園も閉園されたりしている。さらに、介護を必要とする施設や訪問介護が「自粛」となって、安心・安全の社会がどこにいってしまったのかと考え込んでしまう。

 経済的損失も大きいようだ。
 観光地は修学旅行など団体客のキャンセルが相次ぎ、業界団体の悲鳴が各地から聞こえてくる。先日もテレビで放映されていたが、京都ではいつもは車が列をなす駐車場が空っぽだったし、商店街は閑古鳥が鳴いている。観光の人気スポットはいずこも敬遠されているようだ。

 大都市の人ごみは相変わらずだが、マスクをした人、人の波は異様な感じさえ与える。彼らも仕方なく人ごみに参加しているだけなのに、である。
 沖縄県などは観光が主力産業だけに、団体客のキャンセルは痛い。知事が先頭に立って安全をPRしていたし、国の支援も陳情している。同じような光景は2001年から23年続いた。米国同時テロで広大な米軍基地がある沖縄もテロの標的になりかねないと思われ、観光客のキャンセルが相次いだのだ。
 もはや事態は、経済活動にも深刻な影響を及ぼしているということだ。せっかく麻生内閣が景気付けにやった、定額給付金や1000円高速道路料金の効果も新型インフルに吹き飛ばされてしまった。

 一方で、新型インフルのまん延を心配するあまり、社会生活、経済活動に表れはじめた「2次被害」を懸念する声が高まり、政府も当初の全国一律の自粛要請ではなく、地域の実情に併せた対策に切り替えた。不安が過剰に膨らんだと判断したからだ。
 もちろん、新型インフルに対する警戒を怠ってはいけない。だからといって、過剰な不安はより大きな社会的損失をもたらすことも忘れてはならない。
 目に見えないウイルスを心配するあまり、「魔女狩り」のようなことにならないよう冷静に向き合いたい。(尾形)