2009519

◎足元の文化を忘れるな

 「海の博物館」の役割は大きい

 先日、所用で訪れた三重県鳥羽市の「海の博物館」は、思っていた以上に海と人との深い関わりを教えてくれる素材が詰め込まれた「テーマパーク」だった。
 海の民(海民)の歴史と生活が、展示棟と重要文化財の収蔵庫に並ぶ実物資料で再現され、見る者の心をタイムスリップさせる憎らしいほどの演出がなされている。
 展示棟も文化財の収蔵庫も、大型の木造船を裏返しにしたように、船腹を支える骨組みが天井を支え、来場者にあたかも船の中にいるような錯覚を起こさせる。
 博物館が収蔵する57千余の資料の中には、68百点余の重要有形民俗文化財が含まれている。FRP(繊維強化プラスティック)を使った小型船舶に押されてほとんど姿を消したが、ここには日本列島各地で使われていた大小の木造船100隻ほど並んでいる。アイヌが使ったくり舟や沖縄のサバニなど、今では手に入らないような貴重な文化遺産が展示されている。

 海の博物館は鳥羽駅前のバスセンターから路線バスで約40分の「海の博物館前」で下車、そこから100bほど戻って右折、緩やかな坂を道なりに下り10分ほどで着く。
 だが、博物館へのアクセスは、私のような個人的な訪問者にとっては大変不便だった。天気が良かったからいいものの、もし雨でも降ろうものならバス停と博物館の往復は相当しんどいはずだ。しかも、帰りは緩やかとはいえ上り坂だ。
 路線バスが走っているのだから、博物館の入り口までバスを回すのが親切というものではないか。バスが方向転換できる余裕は十分にあるし、訪問客に喜ばれるはずだ。
 博物館の職員に聞いたら、目の前までバスに来てほしいが、赤字路線で
鳥羽市が補助金を出してようやく運営しているから無理は言えないらしい。
 せっかく立派な施設が用意されながら、肝心の「足」を考えないで不便なままにしておいたのでは宝の持ち腐れになってしまう。団体旅行客は観光バスで乗りつけるようだが、博物館の入館者数を聞くと、団体客が大挙押しかけるわけでもない。入場者数も頭打ちで、運営は厳しいようだ。

三重県にとって、伊勢志摩から鳥羽にかけた一帯は観光のメッカである。鳥羽市の中心部から走るパールロードは、伊勢湾の絶景をひとり占めにしたような気分にさせる。博物館は、そのパールロードの途中にあるのだ。
 三重県は海、山の自然がすばらしい。農山漁村には日本の原風景がまだ息づいている。海の博物館は、そんな原風景を文化財を通じて感じさせてくれる得がたい施設である。
 地域の歴史・伝統文化を見直そうという声が高まっている。そんな中で、廃れ行く海の文化を守ろうと海の博物館は必死だ。路線バスの走る場所を少しくらい変更することは難しくない。それで、「海の文化」に対する関心が高まり、訪問客が増えるなら、地元としても言うことないはずだと思うがどうだろう。(尾形)