【直轄負担金】

◎分権の視点を忘れるな

 道路、港湾、河川工事といった、国の直轄事業で地方自治体が背負わされている経費の不合理さを「仕方ない」、などと言う人はもういないだろう。
 直轄事業は地元の要望で事業をやりその恩恵を受けるのだから、それ相応の受益者負担があるのは当然だ。それが、法律で決まっている直轄事業負担金制度というものだ、と国の役人は言い続け、自治体は泣く泣く従ってきた。
 だが、この負担金制度の化けの皮がはがされる事例が次々と明らかになった。国が事前の説明もなく、「請求書」を一方的に回してくる。地元が恩恵を受ける事業の名の下に、国の庁舎建設費や職員の給与・手当などももぐり込んでいた。何をか言わんやである。
 こういった時代遅れの悪しき制度をめぐる動きを、本ホームページの「政治と行政」で再三指摘してきた。
 「奴隷制度」「ぼったくりバーみたいな請求書」と国にかみついた大阪府の橋下知事の言い分に、溜飲が下がった自治体はここぞとばかり反撃の狼煙を上げた。与党は太っ腹なところを見せようと、「任せておけ」とばかりに例によって大風呂敷を広げて見せたが、それもこれも、解散総選挙がいつあってもおかしくない政治状況なるが故である。

地方分権改革推進委員会が急きょ、直轄事業の取り扱いについて意見書をまとめ、鳩山総務相に提出した。
 意見書は、不透明だった負担金の経費の内訳とその積算根拠を明らかにすることや、国が一方的に事業を進めないよう地方との事前協議をルール化することなどを求めている。
 ただ、地方側には直轄事業の廃止を求める意見がある一方で、財政力が弱い自治体は直轄事業に頼らざるを得ない事情もあって、「廃止」に反対する声が強いのも確かだ。社会基盤の整備が遅れている地域ほど、そういった声が多い。
 直轄事業の建設・整備や維持管理に要する費用負担は、例えば、道路の場合は、建設費用の3分の1、維持管理費の45%と決まっている。ちなみに、昨年度当初予算での国土交通省関係の直轄事業費は約3兆3千億円、うち地方負担は約9千億円だった。
 財政力の弱い自治体にとっては、建設費はともかく、延々と続く維持管理の半額近い費用負担は重過ぎるのである。
 意見書は、こうした自治体間の事情を考慮して、事業の廃止ではなく、完成後の「維持管理」の負担金廃止にとどめた。

分権委員会が国の直轄事業問題を取り上げたのは、分権委が昨年暮れ麻生首相への第二次勧告で提言した国の出先機関の大幅見直しの根拠が、計らずも直轄負担金問題という形で飛び出したからだ。強大な権限と財源を持つ出先機関を攻め込む格好の材料を提供したのだから、袋小路に入った分権改革を立て直す追い風とする思惑が分権委にあったのは当然だ。
 問題は、直轄事業の大半を占める国土交通省がどう出るかだ。出先機関廃止には国交省だけでなく霞が関の官庁は否定的だ。現に、族議員を巻き込んだ国交省や農水省の抵抗に首相官邸は何ら手を打てない。
 直轄事業への反発が大きくなったのは、もとはといえば自治体の財政事情が苦しくなっているからなのだが、そこに目をつけたのが追加の景気対策の名の下に出てきた時限的な交付金である。負担金問題で自治体は必ずしも一枚岩ではない。選挙も近い。取りあえず地方の言い分に併せた形で急場をしのぐ「知恵」を考え出したと見ていい。

追加の景気対策でひとまず地方の負担を減らそうという考えに地方自治体がどう反応するのか。制度見直しに対する自治体の考えはさまざまだが、制度見直しは分権改革と切って離せないことを自治体は認識しなければならない。仮にも付け焼刃的な処方に納得して問題を先送りにするようなことは、厳に慎まなければならない。
 地方が行政論で中央官庁に闘いを挑んでも、いつの間にか問題をすり替えられてしまうのは三位一体改革によく表れている。少々乱暴な言葉でも、庶民に分かるような言葉で分権改革に取り組んでもらいたいものである。

09426日)