【直轄事業の戦い】

◎実質的な分権論議が始まった

 政治の混迷で不透明感がぬぐえなかった地方分権改革に潮目が現れたようだ。
 国の直轄事業負担金制度をめぐって国土交通省で8日開かれた全国知事会のプロジェクトチームと3閣僚(国交相、総務相、農相)の意見交換会は、積もり積もった地方の不満が遠慮なしに各閣僚にぶっつけられた。
 知事会を代表して出席したのは、知事会の麻生渡会長(福岡県知事)ら12道府県知事。知事側が指摘したのは直轄事業費の不透明さである。いつの間にか事業費が増え、内訳も説明もないまま追加負担の請求だけが回されてくる。法律で地方の負担が決まっているとはいえ、中には「何でこんな経費まで地方が支払わなければならないのか」というものまである。
 地方の要望で始まる直轄事業だから、地方も応分の負担をするのは当然という理屈はあるが、人件費や施設の建設・修繕費までが事務費の名目でくくられて請求されたのでは、地方が納得できないのは当たり前だ。その中身も、財政難で支払いに窮した知事が問い詰めて初めて分かった内訳なのだ。
 それゆえ、知事たちは直轄事業負担金制度についての情報公開と制度の廃止を求めているのである。

 分権時代の今日、知事は議会に対して政策・事業について詳細な説明をしなければならない。同時に地域住民に対しても隠し立てなんかは、とてもできない。
 元はといえば、直轄事業の地方負担があいまいなまま続いてきたからだ。国が求めるとおり地方が事業費を処理するのが当然で、そこに異を挟むなどは、国に対する反抗としか見られなかった。反抗でもしようものなら、「江戸の仇は長崎で」といった形で、補助事業などの取り扱いで明らかな嫌がらせが行われてきたことを、自治体関係者なら誰でも経験している。
 こうした国と地方の関係に明らかな変化を明確にしたのが、大阪府 橋下知事が先に投じた「負担金拒否」発言である。
 麻生内閣は直面する経済危機克服のためとして、前例のない規模の補正予算を含めた追加経済対策を決定した。その中に、国の直轄事業や国庫補助事業だけでなく、地方単独事業の地方負担分を大幅に軽減する新たな臨時交付金の創設などが盛られている。地方負担分の9割を賄ってやるというから、地方にとって朗報であることは間違いない。
 だが、この大盤振る舞いに諸手をあげて喜んでいいはずはない。臨時交付金は恒久的な措置などではなく、時限措置として盛り込まれるものだ。その財源などあるはずもない。建設国債を発行して財源に当てるのだから、国の赤字がそれだけ間違いなく増える。定額給付金の2兆円、高速道路料金の値下げも将来を見据えたものではなく、景気対策というよりも秒読みに入った解散総選挙を意識したバラマキ対策でしかない。

全国知事会と3閣僚の意見交換会は、負担金制度に対する知事の不満に金子国交相らは制度の不備を認めたが、制度の見直しには明言を避けた。地方の負担の9割を肩代わりする臨時交付金創設がどの程度説得力を持つものなのか現状では不明だが、国には同交付金をテコに知事会の強硬意見をかわそうという計算があるのは間違いない。
 時限的な交付金で地方の公共事業が息をつくとしても12年の短期でしかない。その後をどうするのかは、政府も全く言及していない。思いつく対策をすべて並べて、「国民の一番の関心は景気対策」などと自慢されても、後の尻拭いを増税が待っているようではとても喜ぶ気になれない。

 負担金軽減に始まった国と地方の折衝は、制度の情報公開を突破口にして権限、税財源問題につながることは間違いない。そのことは、国と地方の役割の問題とも密接につながるし、直轄事業制度が現状のまま続くことはありえないだろう。
 同時に、現在、地方分権改革推進委員会が求めている国の出先機関の抜本的な見直しを避けて通れないことも確かである。

09410日)