【経済危機と地域の課題】

「ソーシャルキャピタルを基本にマネジメントしていく集合的な力が、日本の地域問題と成長問題解決策のポイント」

 三菱UFJリサーチ&コンサルティング取締役専務執行役員 門野史明

聞き手……尾形宣夫「地域政策」編集長

【略歴】

門野史明(かどの・ふみあき)1946年石川県生まれ。
1968年東京大学経済学部卒業。東海銀行へ入行、96年取締役、資本市場営業部長委嘱、97年欧州東海銀行頭取 兼 東海キャピタル・マーケッツ・リミテッド社長 、98年常務執行役員、99年(株)東海総合研究所代表取締役副社長、2002年4月(株)UFJ総合研究所 専務取締役 調査本部長を経て、2006年1月三菱UFJリサーチ&コンサルティング取締役、専務執行役員 調査本部長。
著書に 「日本経済再生」19のキーワード(共著、小学館文庫)など。


▽悪循環が回りだした

尾形 去年の秋口に始まる米国を震源とする金融危機で世界経済はかつてない混乱に陥っています。当初はそれほど危機感がなかった日本ですが、影響は深刻です。今回の危機をどう受け止めますか。

門野 最初は問題のテーマの置き方がサブプライム(アメリカの低所得者向け住宅ローン)だったが、それが世界的な金融危機から世界的な経済危機にまで広がった。金融危機と言うと、金融さえ何とかなれば元に戻るんじゃないかという風に考えるかもしれないが、いまやその域を抜けてしまった。不良資産が膨らんで金融機関の体力が落ちれば経済の血液を供給する力が弱まり実体経済に当然影響を及ぼす。

この影響はループ(環)というか悪循環の一つで、まだ動いている。ところが他にもいろいろなループが世界的に回り出した。というのは金融危機、信用収縮によって先進国の経済が悪くなって新興工業国や新興資源国からの輸入が減り、同時に先進国からそれらの国への輸出が減るループが実体経済のグローバルなつながりの中で回りだしている。さらに、心理と実体経済のループだ。昨年のリーマン・ブラザーズの破綻を契機に心理が冷えたと思う。あのあたりから世界の企業心理、消費者心理が急速に悪くなってみんなが身構えるようになった。企業心理が悪くなると、設備投資の延期、見直しとなり、次は雇用にも手がつく。
 消費者側が身構えてしまうと今度は消費を切りつめる。こうして景気はさらに悪くなり、これがまた心理を冷え込ませる。

次に回りだしたのがリストラだ。世界的規模で本格的なリストラが始まっている。リストラは雇用削減や工場閉鎖などにより直接に経済にダメージを与えてしまう。こうなると景気の後退は長引かざるを得ない。
 日本の経験でも本格的なリストラが始まったのは1998年くらいからで、経済がマクロ的な意味でピックアップするまで2002年の初めまでかかった。景気が良くなるのは更に2年くらい先だった。
 02年から始まった「いざなぎ景気」越えのゆるゆるとした景気回復のリード役は基本的に輸出だ。世界の実体経済がみんな収縮するようになったら、先進国の中で一番影響受けるのは日本かもしれない。

▽輸出依存経済が直撃された

尾形 どんな手段が必要か。

門野 経済が悪くなった時にどうするかの知恵も力も不足している。アメリカもヨーロッパも、中国にしてもかなり大々的な財政発動をやるが、日本の場合には基本的に(08年度予算の)一次補正、二次補正合わせても、おそらく真水の部分では大したことないし、発動するかどうかもよくわからない。日本の財政は先進国の中でとてつもなく悪い。政策手段が限られている。
 金融政策は基本的に不況期においては大してワークしない。日本の場合、残念ながら内需拡大に繋がるような発展は、いざなぎ景気越えの時に起きなかった。輸出で潤ってきた企業だけが栄え、それが設備投資をしてある程度日本経済に波及したにすぎなかった。

尾形 そのいびつな経済構造を端的に表す企業の決算見通しが出ました。日本経済を支えてきた主要企業が総崩れの状態です。

門野 企業業績は二つの面から痛い目に遭っている。輸出はまず量的な意味で減る。加えて想定外の急激な円高だ。こうなってきたら輸出に依存していた企業の業績は真っ逆さまとなる。将来に対する不安感が高まってくると、次に消費は必ず抑制されるので家計依存の企業収益もこれから悪くなるだろう。
 金融機関も信用コスト、いわゆる倒産に関わるようなコストが増えている。

尾形 企業業績の悪化で地方自治体の税収にも深刻な影響が表れています。

門野 2000年度と05年度のGDP(名目)を比べると、32道府県で経済規模が縮小し、拡大したのはその半分弱の15都府県だ。最もプラスの変化率が大きかった愛知県とマイナスが最大の高知県を比べると絶対値で16%もの開きがある。
 成長力のないところは基本的に雇用機会もないから人口も減る。成長力がなければ税収も悪いから当然福祉水準などに必ず影響するし、それが拡大気味だ。その中で、一応勝ち組だった輸出で持って潤っていた自治体が今度はダメージを受けている。悪かったところは更に悪くなる。格差を伴いながら全体的に落ちてくるということになるだろう。

尾形 政府の経済対策が動き出す前に国内の危機的状況は一段と進みました。税収不足で地方自治体の基礎体力は弱まる一方です。ところが政治は、政局が流動化し手を打てないありさまです。

門野 輸出に依存する日本経済の構造から見て、世界経済が回復しない限り日本経済も回復しないという順序にもなる。「日本がもっとも早くリカバーする」などと麻生首相は言ったが、日本が一番早くリカバーすることはまずあり得ないだろう。世界的に(回復のけん引役を)期待されているのはアメリカのオバマ大統領であり、もう一つは中国だ。

▽地域活性化は重要な成長要因

尾形 格差問題で安倍、福田内閣は対策を並べましたが両内閣とも1年で退陣した。後を継いだ麻生内閣を待ちかまえていたのが金融危機でした。前内閣の積み残しプラス金融危機で身動きが取れないようです。

門野 過去の「骨太の方針」を振り返ると、「格差」が次第に強く意識され、大きなテーマとして出てきたのが地域の活性化だ。内閣が代わって1年経つごとに地域の活性化のウエートは骨太の方針の中で大きくなってきている。理由は、政治的な意味で地域間格差の拡大を意識したことと、成長政策の手段が乏しいということだ。
 日本は持続的な成長をしない限り財政は良くならないという位置づけだった。そうでないと基礎的収支の黒字化はできない、またそれ以降の財政改革もできない。しかし、その成長を持続するために何をしたらいいのか、だんだん手の内が乏しくなってきた。

そうなってくるとシナリオが狂ってしまう。それでも成長はしなければならないので、地域の活性化ということがでてきた。地域は重要な成長要因だと思う。だから骨太の方針でも「地域活性化」を強調した。初めはお題目だったが、だんだん中身が少しずつ整理されて福田内閣で少し具体化し、地域活性化のウエートが高まった。麻生さんはそういう状況にいた。そこに今回の危機が来た。

尾形 危機を実感させたのは雇用不安の広がりでした。

門野 雇用は社会問題化するから、早期に何とかしなければならない。いろんなやり方はあるが、基本は中小企業対策。日本の雇用の7割は中小企業が作り出している。この中小企業をなんとか維持する、無用な倒産は絶対無くさないかんというのが、今一番大切なこと。そのための手当を考えないといけない。

自治体が緊急的に職員を採用することは重要なことだ。しかし、いずれ地域の活性化につなげていくんだったら2―3カ月の短期ではなく、もっと長期雇用を考えるべきだ。地域には例えば第一次産業をやるような人材が必要だし、08年度予算の2次補正を活用してその地域に今後貢献するであろう技能を身につけるために頑張ってもらう。それで次の中長期的な地域の成長戦略にもかなう人材育成を立体的展望でやるべきだ。
 大企業には投融資の制度などの道はついている。非常事態なのだから中小企業にはもう少し救済的な色彩(の対策を)強めていかざるを得ない。

尾形 政府は新総合経済対策(27兆円)の追加措置として、生活防衛のための緊急対策(23兆円)を用意しました。

門野 金融機関に対する保証枠は金額的にはかなりとれているかもしれない。ただその運用面で、例えば保証協会の過去の保証が的確だったかといったリバウンドがきている。今は緊急事態なのだから生かせるものは生かすという精神でやらないと、倒産は特に地域でもっとひどくなる可能性がある。
 保証だけじゃなくて体力不足の金融機関にきちんとした資本注入をやり、同時に中小企業相手の貸し出しを増やさせる。そこに行政が知恵をしぼらなければいけないと思う。

尾形 経済危機で企業城下町がおかしくなってしまった。個人消費も減退し、地域の金融機関の経営も苦しくなった。

門野 例外もあるが、地域金融機関はそれほど体力があるわけではない。倒産が増えてロスが出るから銀行の自己資本を食ってしまい貸し出し余力がなくなる。それに対して金融庁は大きな資本注入枠は用意しているが、下手に手を挙げると経営がおかしいのではないかと疑われそうだし、政府のカネもらったら箸の上げ下ろしまでコントロールされてしまうのではないかという恐怖感もあるだろう。

▽ソーシャルキャピタルの涵養が必要

尾形 厳しい現実に向き合うために自治体経営はどうあるべきでしょう。

門野 自治体経営と言うとすぐ財政の再建になるが、国は一旦この財政再建をトップクライオリティから降ろした。今一番大切なものは経済危機対策。地域においても似たようなものだと思う。
 自治体だけじゃなくて地域全体として活性化戦略を自らが作っていくべきだというのが僕の考えだ。自主的、主体的に地域を活性化しようと言って初めて地域が新しい経済主体として生まれる。日本を活性化させ、もう一度成長力を取り戻すには、各地域が自ら主体的に動いてその地域の成長・活性化に取り組むというような能力・意欲を持つことが一番重要だ。
 地域といっても自治体だけではなく、企業も家計も大学もあるいは金融機関も、全部含めた意味での地域を経済主体として考えるべきである。そして、共感を持って同じ方向を目指すという「ソーシャルキャピタル」的なものを涵養していくことが一つだ。

もう一つはそのソーシャルキャピタル的なものを生かしながら実際にマネジメントをやる力を涵養しないといけない。この二つの要素を備えて初めてプロジェクトがその地域の活性化に向かって次々と出てくる素地ができてくる。
 そのために首長の役割は重要だ。優れた首長が登場してきているし、そういう首長を選ばなければいけない。そして、そのような基礎自治体の首長を支えて地域を束ね、地域の要請をぶつけて中央を動かすことは県レベルでないとできないが、そういう力も組み合わせないといけない。
 一方で民間の力を地域の運動的なものに広げ育てる自治体のコーディネーション能力というものが要ると思う。そういった戦略を立てていくには地域の大学やシンクタンクは絶対必要だ。
 産学連携と言うと理工系を連想することが多いが、やはり地域の振興に貢献するような文系的あるいは経営的な産学連携が絶対要ると思う。

▽地域資源の総動員が必要

尾形 経済危機で自動車、電機など主要企業は新たな工場立地を見直しました。

門野 規模の大きな工場が来る、あるいは雇用をたくさん持つ様な工場が来るには、エリアとして集積があるかとかそれなりの要件がいる。全ての県がそれを望んでも無理。また最近の近代的な工場は雇用が非常に少ない。研究所のような工場は、高度の知識を持った人が来て、地元の雇用創出はそれ程期待できない。地域がトッププライオリティに置かなければならないのは雇用だ。成長だって良質な雇用を創出するための一つの手段にすぎない。

尾形 増田寛也さんが総務相の時、いわゆる増田プランを出しました。その際、地方からの要望に省庁横断的に対処するとしましたが、地方からの提案があまりない現実もある。

門野 国、地方両方に問題がある。地元でうまく種を育てる力も必要だし、育てて中央にぶつけると障害になる規制などがある。国の方も、各内閣の方策が骨太の方針には謳ってあるが、実際の行政能力として中央政府にそれがあったかどうか。日本の成長力はこのままでは衰える。地域に頼らざるを得ない客観的な事情が国にはあるのだから。

尾形 地域があって国があるわけです。

門野 地域は受け身できているから、自立的にプロジェクトを作る能力に欠けていた。財政の再建を受身で機械的にだけやっていてはいけない。

尾形 とは言っても、財政事情が先行してしまう。

門野 政府は財政の再建をひとまず(脇に)置いた。地域も同じようにはできないかもしれないが、同時並行的に成長を促進する活力を高めることに取り組まないとけないし、その能力の差で地域間格差が違ってくる。だから地域資源の総動員が必要になる。どこにでも、企業化精神の強い人はいる。そのような人を活かした動きが最初は基礎自治体的なところから始まって、基礎自治体同士の連携がだんだん広域になる。
 一方で、地域が実際のプロジェクトを進めていくと、中央政府の壁に必ずぶつかるから、それを突破しなければならない。中央も地方からの要望の受け皿をきちんと整え、(省別の縦割り意識を)突破する力を内閣府に期待したい。

▽第一次産業と観光の連携

尾形 観光庁の委員会や審議会の議論は、観光客のもてなし方とか、外国人観光客が日本に来やすいようにするにはどうすればいいかといった議論が多い。

門野 そういったものは地域が考えること。日本の今後の成長に必要なのは海外の需要を引っ張ってくることしかない。観光庁ができたのは基本的にはその目的があるからで有望な領域だと思う。あとは地域の工夫だ。今の経済状況では環境は厳しいが、中長期的に見て観光はこれから知恵を絞るべき領域である。

それと、第一次産業は今がチャンスだ。農業はまず基本的な国策を今のうちに立てる。それをやってもらうと地域も動ける余地ができる。
 農業の輸出商談は既に展開の余地が出ている。それと農業と食料と観光は組んでいける。一つの例を挙げると、ニューヨークの日本食のレストランが流行っているが、自分で素材を買ってきて日本料理を作り始めるようになった次にくるのは、やはり日本に来て本物を食べたいとなる。

尾形 観光の裾野は広い。縦割り行政を越えています。

門野 だから地域が一つにまとまり障害を突破しなければならない。観光というのは基本的に伝統産業、地場産業の振興にも繋がる。これらをただ補助予算を使いましょうということだけじゃなくて、本当に商売に繋がるようなエクスポジション、エキシビジョンをやらないといけない。そうすると地域で雇用が増える。息も絶え絶えの地場産業も復活する。

尾形 道路特定財源問題では「道路を造ることが第一歩」という主張が多かった。人材育成の投資を忘れていませんか。

門野 地域ごとに投資すべき分野はそれぞれ違ってくると思う。だからそれは地域特性であり、地域の潜在的成長資源というのはみんな違う。そういう意味では例えば(一村一品運動を推進した)大分県の平松知事さんは偉いと思う。
 九州は広域連携で観光が成功した。外国の観光業者を連れてきて地域の観光資源の品定めをさせた。最近出た新書で、大分で地産地消をうまく組み合わせて農家の所得がずいぶんと上がったと紹介されている。そういう取り組みはとっても大事なことだと思う。ある種の地域資源、それらをうまく使っていくと例えば水産を産業として育てるのか観光としても育てられるのかいろいろあると思うが、そこが結局能動的、自立的に考える地域になる。
 さっき触れた一体感としてのソーシャルキャピタルが重要であり、またそれをベースにマネジメントしていく集合的な力、これをいかに育てるかというのがおそらく日本の地域問題と成長問題の解決策のポイントではないか。

▽経済主体としての地域が重要

尾形 輸出依存型の景気で企業は空前の好決算を謳歌したが、サラリーマンの給与所得は全然増えなかった。GDPのかなりの部分を個人消費が占めます。

門野 日本は55%もない。一時60%に接近したが、企業は個人に家計に分配しなかったものだから相対的に下がった。

尾形 個人消費が上向かせないで成長を達成しようと思っても無理です。

門野 経済分類で最終需要だといって消費だとか設備投資だとか言われているが、最終の最終需要は個人だ。やはり個人消費が基本的に最終的な要で、個人が幸せにならねばいけない。企業が一旦幸せになるということは個人が幸せになる一つの前提条件であるかもしれないが、個人に対する分配は少なかった。

 企業だけの論理でいったら企業は世界中、どこへ行ってもいい。だから今回のリストラはグローバルで展開している。ただしそうなってくると今度は国民経済との乖離というのがある。国民経済というのは、我々が住んでる世界の経済なので、大企業の論理だけではなく、地域の中小企業や、地域の農業を大事にしなければならない。そうすれば地域が新たな成長軸になりうる。大企業だけに頼らない新しい経済主体として地域が出てきて欲しい。

尾形 日本の産業構造が変化し、それに伴って雇用効果も激変しました。

門野 (産業構造の変化で)特定の人だけが高い所得を取れるようになった。今のような工業的なあるいは工学的な意味で高度なものだけやってるとそうなるし、サービスにおいてもITだけになるとそうなってしまう。
 今日本が潤っているのは、中国など新興国が真似できないような生産財や資本財を輸出しているからだが、いずれキャッチアップされる。考えなければいけないのは、中国が成長したら生活レベルが上がり、自ずと新しい需要が生まれる。こういったものを今度は日本が供給できたらいい。中国の生活レベルが上がれば、日本に来て楽しむということも多くなる。
 今のところ日本企業はまだ中国人の生活に関わるものは主に中国で作っているが、それを「メイドインジャパン」が求められるようなブランディング戦略を持つべきだ。

尾形 そのためには産業構造も変わらざるを得ない。

門野 だから、外需を獲得する手段が工業的に性能の高いものから今度は生活といったものに変わっていく。それはサービスもそうだし、輸出だけじゃなくて日本に来てくれればいい。外国人観光客が来るのは、財布付きで人口が増えるようなものだ。

▽成功体験が広まり地域力に

尾形 そのような考え方を広めるにはどうすればいいでしょう。

門野 国が啓蒙的なことはやらないといけないと思うが、地域の雇用は大切だし地域が切磋琢磨しないと他の地域にとられてしまう。これは大体分かってきたんじゃないかと思う。

尾形 そうとも言えません。言われたとおりにするのが一番楽だから。

門野 基礎自治体の能力が弱かったら。心ある民間人も現実にいる。そういう動きを自治体が認め、立体的に育てていくということを考えるべきではないか。

尾形 特色のある地域づくりで経済界の幹部も一目を置くような首長が結構います。しかし、そうした地域は「点」としてはあるが、「面」にまで広がらない。

門野 首長はとても重要な存在だ。しかし、あらゆることが全て点から面になるのは無理だ。まず何か一つ成功事例的なものがあれば、それがソーシャルキャピタルの一つの源泉になる。
 そういった意味では観光の広域化は一つの例だと思う。観光は裾野が広いから恩恵を受ける範囲がとてもある。雇用効果もある。ということをプロジェクト的にやる。その際、地域の大学の意見も聞き、企業家精神のある民間の人に頑張ってもらう。

そういう風に動き出して地元に実感がわくと一つの成功体験なり地域のソーシャルキャピタルが増えて継続的な次の案件や別の領域に広まっていく。それが地域力だ。その地域力の涵養ということがこれから新たな地域間格差の要因になるだろう。これはこれからの推進力の格差のことだ。

尾形 今の都道府県知事は官僚OBが半数を超え、大都市の市長にも官僚OBが多い。分権時代を迎え行政能力だけでいいのかという議論もあります。

門野 求められるのは、行政能力と、前に進んでいくもっとトータルなマネジメント能力だ。
 住民意識は基本的にソーシャルキャピタルの一部だと思うが、ローカルマニフェストが少し根付いてきたのだから、それをうまく利用しながら、対話なり評価なり地道に進めていく自治体、あるいはそういう地域であれば、選ばれる人もそれにふさわしい人だろう。そういった人が継続的に選ばれることは無理かもしれないが、継続的とはポリシーの継続性で、それが地元に納得されることではないか。

尾形 自治体経営をもっと厳しく考えてもらいたいですね。

門野 トータルマネジメント能力をどうやって涵養するのかは受け身だけじゃ絶対に駄目だ。新しいことを自分からやってそれをどうやってコーディネートして自分の地域の広い意味での住民を動かしていくのか。種をどう見つけるか、種がなければ植えないといけない。カネの使い方だってカネの力に物言わすなんてことは、もはや日本は財政的に無理だから、呼び水的な感じでいかに上手に使うかだ。やることいっぱいある。企業だってこれから生きるか死ぬかでみんな大変だ。

(「地域政策」09年春季号「インタビュー」)