【高速料金値下げ】

◎何でもありでいいのか

 「上限1000円」の高速料金値下げが始まった。ただし「土日・祝日」、首都高速や大都市近郊を外した地方道を使った場合だけで、ETC塔載の普通車・2輪車に限られた値下げである。
 値下げ初日の32829日の各地の交通量は大幅に伸びたが、極端な渋滞もなく、まずは順調な滑り出しだったようだ。テレビや新聞が伝える主要高速道のサービスエリアはどこも車、車でいっぱい。景気低迷で遠出を控えていたマイカー族が、最大で10分の1の料金で目的地に行けるとなったのだから飛び出したのも無理はない。
 マスコミは判で押したように、料金値下げを喜ぶ姿を満載している。メディアに問われて、神奈川から走ってきたという家族は「讃岐うどんをおいしくいただいた」とうれしそうだったが、各行楽地とも期待どおりの人出で満足だったようだ。
 「一年中この料金でやってもらえればもっと楽しめる」とドライバーは屈託ない。昨年秋のリーマン・ショック以来、苦しいだけで全くと言っていいほど楽しいことがなかった国民である。料金値下げで思いっきり高速を走れる快感は久しぶりだろう。

 だが、この高速料金値下げを喜んでばかりいていいのだろうか。料金値下げ分は、何のことはない、私たちが納める税金から充てられる。天から降って湧いたカネではない。「1000円」の対象外だった首都高速も日・祝日に限ってこれまでの2割引きから3割引きとなったが、これらの恩恵は2年間。料金引き下げを補てんするには5000億円が必要で、これが税金から回されるのだから、政府の“施し”なのではない。
 思い出してもらいたい。高速料金の値下げが取りざたされたのは原油価格が暴騰した昨年夏ごろのことだ。その後原油価格が下がり、これに世界的な金融危機が起きて世界経済が混乱した。こうした状況の下で、麻生内閣は昨年10月に追加経済対策を表明。この中で高速料金引き下げの狙いを景気対策としたのである。ところで、今回の料金下げは民主党がマニフェストで掲げる「高速無料化」に対抗して出したことは論をまたない。
 定額給付金もそうだったが、財政がにっちもさっちもいかなくなっている状況の下で、苦しい財政に目をつぶって一時しのぎの対策をやることが国民生活を上向かせることにはならない。
 「受け取る」「受け取らない」「さもしい」など、当の内閣自体が混乱した定額給付金問題だったが、経済効果に疑問があっても政治的に引っ込みがつかなくなり自治体での給付が始まった。確かに定額給付金を支給された人は喜んだし、受け取りを拒否した話も聞かない。給付金を元手に更なる消費に回してもらいたい、とはしゃいで見せた首相だったが経済効果のほどはあまり期待できないのではないか。

高速料金値下げは、5月の大型連休に向けて政府の“期待値”を膨らませ、各行楽地も例年にないようなマイカーを使った観光客の訪れを皮算用している。行楽客は増えるのはいいのだが、マイカー利用客の増加は一方でJR各社、私鉄利用客を減らすことになりそうだし、航空各社も国内航空旅行客の減少は避けられないと見ているようだ。
 高速料金下げのスタートは渋滞もなく順調な滑り出しだったが、これからも同じとは思えない。利用者が複雑な料金体系になれればマイカーの利用も増えるだろう。となると、マイカー利用客が予想より増え、大渋滞に巻き込まれることだってあるのではないか。
 高速料金値下げの報道で気になったのは、定額給付金の効果に強い疑問を呈したような論調が今回はあまりなかったことである。新聞の社説やコラムで問題点を指摘することはあったが、どれほど読者に読まれただろうか。
 経済危機に直面している国民が、料金下げで政府の思惑通り行楽地に飛び出してくれるか分からないが、目先の刺激で景気を何とかしようとする「何でもあり」の政策が政府・与党の本音ならば、そこに「100年に一度の危機」への対応などを微塵も感じることはできない。
 話題を呼びそうな「小技」は、しょせん選挙向けのアイデアだし長続きもしない。始末が悪いのは、それが回りまわって国民の肩に重くのしかかることである。喜んでばかりはいられない。

09330日)