【霞が関の犯罪】

◎分権改革の正当性を証明

 将来の事務次官と目された農水省の秘書課長が更迭された。正規の許可なく職場を離れて労働組合の活動に専従する、いわゆる「ヤミ専従」疑惑で、あろうことか秘書課長が記者の取材に虚偽の文書を示して説明したことが発覚したのだ。ヤミ専従は全国の地方農政局・農政事務所のほとんどで行われていたという。
 昨年秋に発覚した事故米問題では、福岡農政事務所が問題企業の三笠フーズを100回近くも調べながら不正を見逃し続けている。出先機関のでたらめさが、今度は霞が関の本省に飛び火した。秘書課長の更迭は、農政改革に乗り出したばかりの農水省の恥部を断ち切り、昨年来の食の安心・安全を担う官庁への国民の信頼回復を狙った石破農相が下した異例の政治決断と言っていい。

農水省の不祥事が続くのは、農政に携わる組織が時代にそぐわないまま残されてきたことと無関係ではない。出先機関の大半を占める地方農政事務所がどんな仕事をしているか国民の目からほとんど見えない。
 その時代遅れの巨大な組織が生き延びようとすれば、知られては困る組織の実態を、手を替え品を替え隠そうとするのが当事者たちが考えることだ。使用者側と組合側の馴れ合いがあったのも事実だろう。すべては組織を守るためだったとしか言いようがない。
 国民が知らないところで中央官庁・出先機関が、およそ行政とは無関係な行動をとっていたことが昨年来大きな問題になった。いわゆる、道路特定財源を不当に流用した国土交通省絡みの“事件”などである。

国の出先機関の仕事は一体何なのか、果たすべき役割が分からない―というのが国民の正直な思いだろう。特に、国交省と農水省といった事業官庁の巨大な出先機関の存在が地方行政との重複、いわゆる二重行政の最たるものと言われ続けてきた。
 この二重行政の元凶ともいえる国の出先機関の統廃合を目指しているのが地方分権改革推進委員会だ。分権委は昨年来、各省に出先機関の見直し、全国一律の行政手法の改革を求めたが、各省ともほとんどゼロ回答に終始した。中でも分権委が特に力点を置いたのは、国交省と農水省の改革だった。
 業を煮やした分権委が昨年暮れにまとめた第二次勧告は、出先機関を統廃合して「地方振興局」と「地方工務局」とし、職員35千人の削減を求めた。ところが、勧告を受けて政府が決めた出先機関改革の工程表から、勧告に盛られた数値目標ははずされた。
 分権委は農水省に「農地転用の許可権限」を地方に任せるよう再三迫ったが、同省の返事は「農地転用は全国的視野で行うもの」と突き放した。地方に任せたら農地がなくなってしまうという地方への不信感だった。
 だが、今回のヤミ専従問題は全国的視野で行われるべき農政の仕組みに重大な欠陥があることを浮き彫りにした。皮肉なことに、分権委が指摘した問題点を、農水省が自らさらけ出してしまったのである。

農水省のヤミ専従問題は、農政事務所の幹部職員は全く仕事をしていないとする告発が人事院に寄せられたことが端緒だった。内部告発が組織の腐敗を暴き出す例が最近目立つようになった。
 政治や行政の仕組みに構造的な欠陥があるなら、早急に是正されなければならない。農水省以外の他の省庁にもヤミ専従はないのか。霞が関に対する不信を払拭するためにも内部調査をしてもらいたい。
 分権改革は、中央行政の伏魔殿を正す時代の要請である。しかし、地方行政も自らを律する責任を求められていることを忘れてはならない。

09327日)