【分権工程表】

◎道標なき政府の分権改革

 政府の地方分権改革推進本部が決定した国の出先機関改革スケジュールなどを示す地方分権改革の工程表は、分権改革の暗雲を示するような内容だった。地方分権改革推進委員会(丹羽宇一郎委員長)が昨年暮れ、麻生首相に提出した第二次勧告で求めた組織の統廃合と職員削減の数値目標を盛り込まず、結論を年内にまとめる「出先機関改革大綱」に先送りしたからだ。

 二次勧告は、国土交通省の地方整備局や農林水産省の地方農政局など六つの国の出先機関を「地方振興局」と「地方工務局」に統廃合、併せて「3万5千人」の職員削減を数値目標として工程表に盛り込むよう迫っていた。
 ところが、政府部内の調整は霞が関と永田町の改革に対する否定的な状況を映し出すように腰が引けたものとなり、丹羽委員長が我慢できずに工程表決定前日の23日に鳩山総務相に直談判、数値目標を入れるよう要請している。

 しかし、時すでに遅しだった。
 工程表に改革の意気込みが表れなかったのは、霞が関の中央官庁に加えて自民党の強い抵抗に配慮したことだけではない。政府、自民党が秋までに間違いなく実施される衆院総選挙をにらんだ、先行き不透明な政治状況を強く意識したからである。
 鳩山総務相は、勧告に沿ってやれば将来的には3万5千人の削減になるとは言うが、大綱につながる工程表に数値目標が盛られないようでは、分権委が求めた数字にまるで説得力はない。
 世界的な経済危機で雇用情勢が悪化しているのは事実だが、総務相は雇用は最大の政治課題だとして、経済情勢の変化を見極めなければならないと語っている。つまり、出先機関の統廃合と職員削減は、今の状況下では優先順位が後退し勧告通り進めることは無理ということだ。

 工程表では、組織の見直しは「勧告の方向性に沿って検討」としたものの、職員削減の目標は「将来的な削減を目指すべきとの試算が示された」と言及したにすぎない。さらに、新体制への移行時期も原案の「2012年4月」から「2012年度」に書き換えられた。これでは、分権委の勧告が尊重されたとはとても言えない。
 分権委の第二次勧告は、土壇場で出先機関の統廃合と職員削減で具体的な提言を盛り込んだ。というのも、事務レベルでの分権改革の限界は明らかだったし、改革を前進させるためには政治主導の推進態勢が欠かせなかったからだ。
 だが工程表を見る限り、丹羽委員長が戦略的にねじ込んだ政治的メッセージは空振りに終わったようだ。それは、霞が関の抵抗が強かったからというよりも、麻生氏に首相としてだけでなく、自民党総裁としての政治的指導力がなかったと言う以外に理由は見当たらない。
 政権余命の短さが当たり前のように言われている麻生内閣の現状を見れば、分権委の勧告がどれほどの比重を持って内閣の政策に位置づけられているか心もとない感じを持たざるを得ない。

分権委の中に、麻生内閣の退陣を見越して総選挙後の新政権に次の三次勧告をすべきだという声が多数派になりつつあるという。「信」をなくした内閣ではなく次の政権に付託する方がましということなのだが、残すところ1年の分権委の任期を考えれば、分権改革の道筋はしっかりと固めておかなければならない。
 分権委が政治状況を不安視することは理解できるが、5月にも予定される次の三次勧告を先送りすることは委員会の責任を放棄するに等しい。政治状況が正常でないことはそのとおりだ。だからといって分権委の仕事を政局に合わせることは一利もない。次期勧告を先送りすることは、どんな理由を付けようとも分権改革の勢いを弱めようとする勢力に与(くみ)することにつながることを忘れてはならない。
 分権委の丹羽委員長は工程表について、出先機関の統廃合と職員の削減は政府が年内にまとめる「大綱」に盛り込むということだから「後退」でも「先送り」でもないと語った。だが、丹羽氏の真意は「改革が失敗したら日本の将来に禍根を残す」ことにある。工程表に対する不満をぶつけるよりも、分権委が勧告した内容を脇に追いやるようだと、国の将来はないということを丹羽氏は警告したのである。

09325日)