2000年の沖縄サミットを滞りなく終えた稲嶺県政は、具体的な内容はともかく普天間飛行場の移設にめどをつけ、再選を目指して動き出した。だが、稲嶺氏の本心は「2期目には出馬したくない」だった。これを知った首相官邸、自民党首脳の驚きは大きかった。普天間移設は、稲嶺県政でしか実現できない。稲嶺氏に代わる人物はいなかったし、まして移設に反対する革新陣営に県政を譲るわけにはいかない。政府与党首脳らの波状的な説得工作が成功した。対する革新陣営は統一候補の絞込みに失敗、結局、元副知事の吉元政矩氏で戦いを挑んだ。

核心評論「沖縄県知事選」

◎無力感の後に何がくる 

 問題爆発の危険も

 しらけた選挙戦だった。
 十七日投開票された
沖縄県知事選のことだ。結果は保守系で現職の稲嶺恵一氏が有力な対抗馬の元副知事、吉元政矩氏を大差で下した。選挙戦は終始盛り上がりを欠き、投票率は57・22%と、四年前より約20ポイントも低く過去最低だった。
 稲嶺氏の再選は厳粛に受け止めなければならない。だが、有権者の予想を超えた選挙離れは沖縄が抱える経済、基地問題と無縁とはいえない。異常に低い投票率が国政と県政に突き付けた問題は無視できない。同時に有権者自身も今後、基地問題などで難問に直面せざるを得ないと覚悟しなければならない。
 政府筋は「県民は基地問題よりも経済問題を選択した」とする見方でほぼ一致している。
 選挙結果を見る限り、まさしくその通りかもしれない。県内失業率9・4%の数字に象徴される不況が、基地問題をわきに押しやったとみても間違いない。

 復帰後、七兆円にも上った沖縄振興予算抜きに、沖縄経済の振興は考えられなかった。それは今でも変わらない。つまり、沖縄経済は「財政」抜きには成り立たないし、中央直結ですべてが回ってきた。稲嶺氏の圧勝は、その延長線上でみることができる。
 だが稲嶺氏には、ほとばしるような勝利感はなかった。選挙戦を通じて見られた有権者の冷めた反応が重くのし掛かっているからだ。稲嶺氏が経済問題の実績を誇り、基地問題で強硬な発言を繰り返しても、有権者の反応は鈍かった。
 普天間飛行場の移設に代表される基地問題と経済振興策がワンセットであることを疑う人はいない。沖縄の将来を占う、この重要課題が国の主導で進んでいる現実が、有権者にある種のあきらめと無力感を植え付けたのである。本来、有権者の不満を吸収するはずだった革新陣営も、共闘態勢の崩壊でその力を四散させてしまった。
 基地問題に経済振興を絡めたシナリオは、今後一段と弾みをつけるだろう。その環境が整ったと政府は判断している。しかし、そこにある落とし穴をわきまえなければ、沖縄の不信感は広がるばかりだ。
 国と沖縄の関係では、政府のほんの小さな動き(考え)が、沖縄を大きく揺るがす「振り子」を果たすことがある。かさに着た行動は厳に慎まなければならない。

 一方、経済問題を優先させた県民の選択は、基地問題での不満を相対的に低下させたとする政府の判断につながり、政府に対するさまざまな要求の説得力が弱まる可能性が大きい。沖縄の歴史的特殊性を説いても、知事選の結果を盾に切り返される事態も、十分予想される。
 加えて、「沖縄応援団」の有力政治家が影響力を低下させている現実を見れば、これまでのような政治的配慮は期待しにくい。不況という差し迫った生活問題から県民は「経済」を選択した。そして短時日で解決できない基地問題を、取りあえずわきに置いた。
 基地問題に対する県民意識にさほどの変化はない。そこを見誤ると、沖縄問題はまた「爆発」する危険性がある。

021119日付