★前稿の「泡瀬干潟」を埋め立て経済振興の起爆剤とする沖縄振興諸施策は、その法的根拠としての沖縄振興開発特別措置法があった。それが4月から「沖縄振興特別措置法」と名を替え、本土復帰30年からの新しい根拠法となる。旧法の名称から「開発」を外し、とかく開発優先と思われがちな法律の性格を環境問題も視野に置いた法律と位置づけた。沖縄の自主性が問われる新しいスタートである。

 論説 「一国二制度」

◎沖縄の自主性が問われる

 一九七二年五月、本土復帰でスタートした現行の沖縄振興開発特別措置法が三月末で期限が切れ、四月から新たな振興特別措置法が施行される。復帰三十年、沖縄は「沖縄振興特別措置法」という法律的裏付けを得て動きだす意味は大きい。
 新しい振興法は、「一国二制度」と呼ばれる国内では他に例を見ない制度を大胆に導入した。沖縄の経済的自立を強力に後押しするためだが、一方で強大な米軍基地は少なくとも短期的には不変だ。振興と基地という宿命的な課題を背負いながら、沖縄は再出発する。
 新法は現行法から「開発」の文字が消えた。開発は過去の振興計画で一応終えたとの認識からだ。開発に伴うマイナスイメージを脱却して、新時代を切り開こうという意欲がうかがえる。

 まず注目されるのは「特区制度」の導入である。
 進出企業に法人税率軽減などの優遇措置を講じた金融業務特別地区(金融特区)や情報通信産業特別地区(情報特区)の創設を盛り込んだ。三年前にスタートした、特別自由貿易地区(中城湾港)と合わせて沖縄に「三特区」がそろうことになる。
 また、産業高度化地域の創設や世界的な技術水準の人材育成を狙った大学院大学の設置は、先端技術なしに、いかなる産業の成長もあり得ないという現実を見据えたものだ。そのために産学官が一体となって、沖縄の「ハイテク立国」を目指すことにした。
 食品やバイオ技術を使った地場産業が意外に元気な事実はあまり知られていないが、新技術の採用で一段の成長が期待できると内閣府幹部は指摘している。新規の戦略産業創造にとどまらず、既存産業強化も視野に入れたものである。

 こうした産業振興策に加えて、沖縄がどうしても乗り越えなければならない基地問題では、基地給付金(軍用地代)の延長特例などの規定を設けた。
 普天間飛行場の返還・移設は政府と県にとって最大の懸案だ。大規模返還跡地の有効活用なくして、普天間基地を抱える宜野湾市の将来展望が考えられないだけではない。日米間で合意した米軍基地の整理・縮小計画が遅々として進まないのは、現行法では対応できないからで、新法にその解決を託したわけだ。
 ただ、こんな制度や仕組みができるから沖縄の産業振興や経済的自立が保証されたと考えるのは早計だ。つまり条件整備は起爆剤になり得るが、あくまでもスタート台に立ったということである。制度や仕組みが、いかに有効活用され、成功の果実をもたらすかは、沖縄の知恵と努力によるところが大である。
 新法の下で振興計画が作成される。その際ポイントになるのは、県が作成する観光、情報通信、農水産業振興、雇用促進の四部門の行動計画の中身。特別措置に「魂」が入るか否かは、この行動計画にかかっていると言っても過言ではない。
 沖縄の主力産業は誰の目にも観光と映る。事実、観光産業のウエートは年々高まる一方だし、成長産業であることに変わりはない。ただ、観光モノカルチャー的な考え方だけでは、バランスの取れた振興はおぼつかない。

 沖縄振興の理念に「選択と集中」「参画と責任」が掲げられた。今まで以上に自主性と計画性が迫られるということだ。
 もちろん法律ができたから国はもう関係ないとは言えない。制度運用の足らざるところや、基地問題のように極めて政治色の濃い課題は、ひとり沖縄だけで解決できるものではない。
 過去三十年、国が注ぎ込んだ財政資金は約七兆円に上るが、一方で沖縄の財政依存を強めることにもつながり、自立の足取りを重くした。
 国の財政支出は現行法の第三次振興計画がピークで、今後はこれまで通りを期待するのは無理だ。
 沖縄が三十年前思い描いた、平和で豊かな沖縄県の創造は道半ばである。尾身幸次・沖縄担当相は、新法自体が一国二制度だと胸を張った。国と沖縄県の緊密な連携で新法の理念を実現してもらいたい。

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