★基地問題に揺れる沖縄が、同時に求めるのは経済振興である。沖縄本島中部の嘉手納米空軍基地に近い沖縄市の東海岸の泡瀬地区は、沖縄米軍の通信・傍受基地として米軍戦略の一翼を担ってきた。その泡瀬基地が臨む海岸部は広大な干潟が広がり、環境保全の面から保護が求められてきた。だが一方で、この干潟を埋め立て一大リゾートを建設する計画があり、開発か保全かの論争が続いている。

「論説」「泡瀬干潟開発」  

◎干潟保全に逆行しないか

 沖縄の干潟開発問題がクローズアップされた。
 日本弁護士連合会(日弁連)の湿地保全・再生プロジェクトチームが、沖縄県中部の中城(なかぐすく)湾港に計画されている海洋性リゾート計画「マリンシティ泡瀬」の干潟埋め立てを明確に否定したからだ。
 日弁連の「泡瀬干潟埋め立て事業に関する意見書」は、結論として「事業中止」と保全措置としての「ラムサール条約上の湿地登録」を求めた。
 地元ではこの数年、開発をめぐって賛成、反対両派が激しい論争を続けてきた。本格着工を前に出された日弁連の意見書で、泡瀬開発問題は新たな論議を巻き起こすことになりそうだ。

 日本列島には戦前、八万二千六百ヘクタールの干潟があったと推定されている。しかし戦後数十年で、その四割がなくなり、現存する干潟は五万千四百六十二ヘクタールとなったと環境省の調査は指摘している。地盤沈下など自然の変化による消滅もあるが、多くは埋め立てや干拓など開発行為のためだ。
 特に一九六○年前後の高度経済成長期は、臨海部は開発の標的となった。バブル期のリゾート計画でつぶされた干潟も少なくない。沖縄県によると、七二年から九七年までの埋め立て総面積は二千三百九十ヘクタールに上る。「泡瀬干潟を守る会」の調査では、千百八十五ヘクタールの干潟が消滅した。

 泡瀬開発計画は正式には東部海浜地区開発計画と呼ぶ。問題の泡瀬干潟は、沖縄中部の街で、米軍嘉手納基地に隣接する沖縄市の地先の海である。この海域百八十五ヘクタールを埋め立て、国際交流拠点、海洋性リゾートの拠点を整備しようという壮大な計画だ。
 埋め立ては、隣にある中城湾港新港地区・特別自由貿易地区の航路しゅんせつ土砂を使う国の事業。一部は県も実施するが、ほとんどは国が責任を持つ。
 この埋め立て地を県が整備、半分を沖縄市が購入、活用する計画である。計画は、沖縄市がバブル最盛期の八七年にコンサルタント会社の報告を下敷きに作成したマスタープランに基づくもので、バブル期の思考が色濃い。
 日弁連の意見書は埋め立て事業の目的や合理性に強い疑問を呈した上で、整備計画実現の可能性について、特に中心となるリゾート施設の利用推計や企業誘致を「極めて困難」と断じた。採算性が不透明なだけでなく、南西諸島最大の干潟として貴重な自然資源をいかに守るかという命題も立ちはだかっている。
 埋め立て事業は一昨年十二月認可された。しかし昨年八月に予定された着工は先送りとなった。絶滅危ぐ種クビレミドロの移植実験で遅れたからだが、このほど移植の見通しがついたという。だが本格的工事開始はまだまだ先になりそうだ。

 日弁連は九七年以降、中海干拓事業、長良川河口堰(ぜき)問題、諫早湾干拓事業、そして三番瀬埋め立て事業に対しそれぞれに意見書を出し、湿地を対象とした個別開発計画の中止を求めてきた。泡瀬計画への意見書はこれらに続くもの。

 日弁連によると、いまだに湿地に対する開発の脅威が続いているのは、わが国がラムサール条約を批准する際に、新たな法律を作らずに既存の法律で対応したように法制度面での問題がある。総論的に環境保全をうたっても、個別的に、具体的にどうするかがないのが現実だ。
 ごみ処分場としての藤前干潟埋め立て計画(名古屋港)に環境庁(当時)は異を唱え、三番瀬計画(東京湾)でも計画の見直しを求めた。藤前計画、中海干拓計画はいずれも挫折、三番瀬計画も白紙撤回。諫早湾干拓は、水門開放調査をめぐって難航しているが、干拓面積は大幅縮小となった。
 これらの計画の共通点は、環境問題と財政問題が立ちふさがったことである。だが沖縄・泡瀬計画は、これに基地問題が加わるという点で異質だ。沖縄市の仲宗根正和市長は「米軍基地が動かない以上、東の海に夢を描くしかない」と言っている。他の地域ではあり得ない事情、この泡瀬にも沖縄問題の特殊性が表れているのである。

02320日付)