★「9・11同時テロ」に、私たちは信じられない光景を目の当たりにした。「戦場」とは無縁の米本土の、それも世界経済のシンボルのような超高層ビルに航空機が突っ込んだ。想像を絶する自爆テロである。米国は間を置かず反撃に出た。21世紀の混迷の始まりを象徴する戦いの火ぶたが切って落とされた。
 「太平洋の要石」沖縄は無縁ではなかった。沖縄の米軍基地は昼夜を問わず、異様な動きを始めた。南国の島沖縄から観光客が遠のいた。これも、基地の島の現実である。


論説「同時テロと沖縄」

◎県民の悲鳴に耳を傾けよ

 残念なことに、「基地」がいつも付きまとう沖縄の現実がまた起きてしまった。
 米中枢同時テロ(九・一一事件)発生以来、沖縄への団体旅行予約が相次いでキャンセル、沖縄経済を直撃している。観光は沖縄経済を支える主力産業だ。公共事業、基地関連とともに、沖縄経済を支える「3K」と呼ばれる。この観光産業が同時テロの直撃を受けたわけだから、深刻というほかない。
 沖縄県の集計によると、キャンセルは六日現在で修学旅行が七百四十四校、約十六万七千人に上る。一般団体は四万八千人。理由は沖縄がテロの標的になるかもしれない、という風評だ。
 在日米軍の四分の三が集中するため立つうわさなのだが、県民生活は普段と何ら変わるところがない。風評だけが独り歩き、結果的にキャンセルの続出という状況に追い込まれた。
 沖縄県が追跡調査したところ、父母の不安感が学校や教育委員会を動かし、なだれ的な旅行解約につながったという。こんな状態では、沖縄側が、どんなに「安全だ」「大丈夫だ」と言ったところで防ぎきれるものではない。

 一九七二年の日本復帰以降、沖縄の社会基盤が飛躍的に進み、軌を一にするように、観光産業が発展した。特に近年の観光客数の伸びは目覚ましいほどだ。
 昨年は主要国首脳会議(沖縄サミット)の開催で、警備上の制約から前年よりわずかに減り四百五十二万人にとどまったが、現在の観光振興基本計画の目標、年間五百万人も手が届くところまできていた。現に今年一―九月の観光客数は過去最高のペースだった。
 例年、十、十一月は修学旅行のシーズン。年間修学旅行の半分がこの二カ月に集中する。一般団体も加えた予約解消は、昨年一年間の観光客数の約5%に当たる。昨年の観光収入は四千百五十億円だったが、仮に今年の観光客が二十五万人減少すると、二百三十億円の収入減になる。地元金融機関も極めて悲観的な試算をしている。
 もはや沖縄にできることはごく限られている。「安全」を信じて、これまで通り沖縄旅行をしてもらうようPRするしかない。稲嶺恵一知事も再三上京、小泉純一郎首相や関係閣僚に支援を要請した。そんな努力のかいもあって、沖縄修学旅行への助成金拠出が決まり、沖縄便航空運賃値下げも実現しそうだ。不安も徐々に小さくなりつつある。
 しかし「なんで私たちだけが同時テロの影響を受けなければならないのか」の思いが沖縄にある。その通りだと思う。沖縄の完全失業率は9%を超える異常さだが、これはテロとは関係ない。いずれテロの影響が顕在化、深刻な雇用不安に見舞われるかもしれない。
 政府が不安払しょくに万全の対策をとる必要があるのはもちろんだ。が、同時に本土に住むわれわれ自身も考えなければならないことがある。

 米軍基地があるが故の漠然とした不安があるとはいえ、事件以前は、基地の存在に大きな関心を持つことなく沖縄観光を楽しんだ。ところが事件後、手のひらを返したように「基地があるから心配で行けない」では、現に沖縄で暮らしている人たちはどうすればいいのか考えたことがあるだろうか。
 十一月初め開かれた「世界のウチナーンチュ大会」は、世界の三十カ国・地域から四千人を超える移民の二、三世らが参加、沖縄のエネルギーを爆発させた。沖縄の安全を証明した大会の成功を喜びたい。
 私たちはこれまで、嫌なことには目をふさぎ、沖縄の広大な基地の存在に異を挟まずに歩んできた過去を思い起こすべきだろう。テロ事件で今また同じことを繰り返してはならない。個人が抱く不安感は押しとどめようもないが、風評があたかも事実であるかのように広がり、沖縄の悲鳴を巻き起こしている現状を一日も早く脱したい。
 沖縄の基地問題への国民的関心は薄れている。だが沖縄旅行のキャンセル続出は、反基地運動とは全く違う形で基地問題を浮き彫りにした。現実を直視したい。

011113日付