核心評論「沖縄は危機的状況」

◎健全な“安保摩擦”が必要

 信頼醸成に活発な論議を 

 日米同盟の重要性を確認し、安全保障など戦略対話の強化を確認した日米首脳会談の裏で、米兵による女性暴行事件という忌まわしい事件が相次ぐ沖縄の現実をどう説明したらいいのか。
 六年前の少女暴行事件で渦巻いた、反基地感情のうねりが再現されかねない状況を回避するには、日米両政府が厳しい現実を直視し、改善策を早急に立てる以外にない。同時に、基地問題で見過ごされがちな地元住民の気持ちを、両政府が真剣にくみ取る努力も一層求められる。

 沖縄の基地問題は昨年の主要国首脳会議(沖縄サミット)以降、政治的には普天間飛行場移設に絞られてきた。この間、米兵事件がなかったわけではない。
 事件のたびに日本政府が遺憾の意を表し、米側に抗議する。米側も謝罪し、綱紀粛正を約束する。だが、これが事件の再発防止につながっていない。
 日米安保を堅持、円滑な運用を図る以上、事件・事故を再発させないようにしなければならない。この当たり前のことが守られていないのが、今の沖縄だ。
 人権を踏みにじる犯罪でありながら、米側は被疑者の「人権」を盾に身柄引き渡しになかなか応じなかった。犯罪捜査の国境の壁に地元が涙をのんだ例は数限りない。この壁を突破する手段が、当面は容疑者の起訴前の身柄移管である。
 そのための地位協定の改定には数年の時間を要するという。だから事件に機敏に対応するには運用改善がいいと説明されるが、運用改善も米側の「好意的配慮」にかかっている。
 日本の安全を託する安保条約を補完する地位協定だが、いつまでも治外法権的扱いが許されるものではないのは当然である。

 一九九六年四月の日米安保共同宣言以来、歴代首相は日米首脳会談で同盟関係の強化を繰り返し確認した。その日米基軸に異を唱えはしない。対等な協力関係も重要だ。
 だが真の日米友好関係の確立に遠慮は不要だ。問題点をさらけ出して妥協点を追求する努力が十分だったか疑わしい。日米経済摩擦が相変わらず続くのも、健全な両国関係の証明と言える。安保問題でも健全な「摩擦」があっていい。
 数年前、基地問題で日米双方が激しくやり合った例がある。
 普天間飛行場の移設先として日本側が嘉手納空軍基地への統合案を提示した。収容能力、基地機能を十分計算した案だったが、米軍の反対で実現しなかった。狭い沖縄ゆえ日本は統合を求め、米軍は“米国サイズ”の基地を譲らなかった。

 米国の感覚で基地機能を維持しようとする強引さと、これを容認する日本政府の弱さの延長線上に事件・事故がある。基地は政治的に維持できるかもしれない。だが住民の反感に囲まれた基地が機能を果たせないのは明白だ。
 孤立した基地が、いかにもろいものか、指摘するまでもない。

 事件現場となった北谷町の住民は、自衛のため週末のパトロールを強化するという。米軍も基地外での深夜の飲酒を自粛するようだ。
 米政府が言う「良き隣人」政策がむなしく響く。東アジアの戦略的要衝とはいえ、続発する米兵事件は、沖縄の基地問題が行き着くところまで来てしまったことの表れか。

0177日付