連載企画「普天間移設の死角」4回続きの(4)完「不信感」 

◎逆効果招いた外相訪問 

 後退発言は官僚主導か 

 二月二十日午前、東京・永田町の衆院第二議員会館。
 「君たちは何を考えているんだ」
 自民党の尾見幸次幹事長代理は自室の電話口で、日米地位協定見直しに煮えきらない答えをする外務省幹部を大声でしかりつけた。そばには地位協定の見直しと海兵隊削減を要求する沖縄県議会決議を持って上京した自民党県連の幹部が座っていた。
 続発する米兵士の事件だけではない。在沖縄米軍トップのアール・ヘイルストン四軍調整官までが、稲嶺恵一知事らをそしった電子メール事件は県民をひどく怒らせてしまった。
 県議会決議や中部の北谷町議会の海兵隊撤退要求決議などは、議会が真正面から沖縄米軍の存在に挑戦状を突き付けたものである。

 政府は事件、事故の度に問題になる地位協定をこれまで「運用改善」で対処し、根本的な見直しをしてこなかった。だが、それで済まなくなったのが最近の沖縄の動きだ。
 河野洋平外相が先月十四日、外務省で稲嶺恵一知事と会談した際、場合によっては「協定の改定検討」の意向を強くにじませている。
 その外相が政局が揺れる中の二月二十五日、沖縄を訪問した。協定見直しに消極的だった河野氏の突然の訪問に沖縄が「前向きな言葉を期待」(県幹部)したのはむしろ当然だった。
 しかし外相は知事との会談で協定の改定に踏み込まず、当面は運用面の見直しに努力する考えを示すにとどまった。つまり、これまでの運用改善と同じで、県側の要求に程遠い。知事は納得しなかった。

 外相の沖縄での説明は、明らかな「後退発言」と受け取られた。外相がわざわざ沖縄まで行ってなぜ従来の方針を説明したのか。
 考えられるのは、先月十四日の外相発言が協定改定に向けた政府の考えとして独り歩きしかねない状況がある。尾身幹事長代理と外務省幹部の電話でのやりとりからすると、外務省幹部は明らかに十四日の外相発言を否定している。
 外相が直接沖縄に乗り込んで真意を説明して理解を求め、併せて知事の要望にあらためて耳を傾け政府の誠意を示す―こんな政治的配慮があったと推測できる。だが一九九五年秋の少女暴行事件当時、外相だった河野氏は、沖縄側の地位協定見直し要求に「時期尚早」と答え県民は猛反発した経緯がある。
 日米同盟重視のブッシュ新政権が発足して間もない時期に対米感情が怪しくなっている。こんなときに地位協定改定を持ち出せば、両国関係への影響は計り知れない。こんな事情が外相の軌道修正の背景にあるのではないだろうか。

 沖縄では今、普天間飛行場の移設問題がヤマ場を迎えようとしている。経済振興と引き換えの普天間移設の舞台となる名護市辺野古は、基地と経済のはざまで悩む沖縄の“縮図”のようだ。
 外相の沖縄訪問が普天間問題に影響なしとは言いきれない。問題の裏に日米関係があり、日米安保には常に沖縄が付きまとう。この現実を打開する第一歩が地位協定見直しであることは論をまたない。

20010229日付