連載企画「普天間移設の死角」4回続きの(3)「もつれる思惑」

◎激しさ増す水面下の動き 

 仕事の取り分求める沖縄 

 総合商社の日商岩井が「海上集積基地」の構想をまとめて関係方面に「沖縄海洋空間利用技術研究会」の名で配ったのは一九九五年七月。沖縄で米兵の少女暴行事件が起きる二カ月前である。
 返還合意しながら移設先が決まらず宙に浮いていた那覇軍港の代替施設として、那覇支店から届いた提案を基にまとめられた。この構想が間もなく、普天間飛行場の代替施設建設工法の一つ「くい式桟橋方式」として表舞台に登場する。

 場面が急転回するのは九六年四月の普天間返還合意。秋に沖縄で橋本竜太郎首相(当時)が「海上施設案」を発表したからだ。
 将来の海上空港や大型浮体式物流基地などを目指すメガフロート方式の技術研究組合ができたのも同じころ。普天間代替施設は、これら次世代工法に人工島を造る埋め立て方式が加わり、終盤の商戦が続いている。
 九九年暮れ、移設先となる名護市の岸本建男市長が正式に受け入れを表明した。移設先が四半世紀も決まらない那覇軍港より普天間移設に鉄鋼、造船、重機械、建設、商社の関連業界が色めき立ったのは言うまでもない。だが業界の表立った動きは抑えられた。
 業界幹部の一人は「防衛庁がかん口令を敷いている」と言った。政府は情報漏えいを止めようとしているだけではない。沖縄での行動さえ慎むよう命じている。
 特に昨年七月の主要国首脳会議(沖縄サミット)を控えた時期は、沖縄県民の感情を考慮して業界への忠告は厳命とさえ映った。
 サミットが無事終了、謝意を表すため沖縄を訪れた野中広務自民党幹事長(当時)が「利権が先行するようなら、許さないと誓う」と祝賀会で言ったのも、巨大事業なるが故に企業行動が過熱することを心配したからだ。

 主要企業の動きが見えなかったのはこのためである。だが今年一月の代替施設協議会での三工法の説明は、勝負が「最終段階」に入ったことを示した。
 関係筋の話を総合すると、決め手は「沖縄にどれだけメリットがあるかどうか」だ。沖縄経済界の有力者の一人は「引き受ける仕事量だけではない。利益が十分取れる仕事かが問題だ」と具体的な工法と建設地点を口にした。
 企業の動きについて有力者は「政治的にはまずいとなっているが、みなやっている。本土企業もだ」と明かしたが、具体的な内容は「言えない」とかわした。名護市辺野古に住む建設推進派の一人に問うと、「私に言わせないでほしい。ただ国からは、県や市と戦争をしなさいと言われている」と壮大な腹案を語った。
 関係筋によると、工法ごとに関係企業が地元の理解者と接触する一方、本社幹部が経済界の有力者に直接協力を求めているようだ。

 どの方式が採用されるにしろ事業規模は膨大になる。民間空港機能が加わるとして、関連施設を含め数千億円からほぼ一兆円に上る国家プロジェクト。
 景気低迷で業績不振に悩む関連業界には、事業への参加は至上命令だろう。だが、巨大事業が抱える環境などの難問を乗り越える方策は見えてこない。

010228日付