★在日米軍の75%が居座る沖縄は、別名「基地の島」、米国の世界戦略上欠かすことができない太平洋の「要石」である。米兵が引き起こす事件・事故が後を絶たないと思っていたら、今度は軍のトップが沖縄県知事を見下す暴言をはいてしまった。知事とはいえ、他国の行政責任者をあるまじき言葉で卑下するなど許されるものではない。暴言は日本政府の従順な対米国姿勢がさせたことと言っていい。
 

核心評論「沖縄米軍トップの暴言」 

◎米軍の沖縄観の表れだ  

 むなしく響く「良き隣人」

 米兵犯罪が続発する沖縄で、今度は在沖縄米軍トップのアール・ヘイルストン四軍調整官(中将)が稲嶺恵一知事らを「ばかな弱虫」などと誹謗(ひぼう)する電子メールを部隊指揮官らに送っていたことが明らかになった。
 中将は「誤解を招いた」と陳謝したが、それですむものではない。階級社会の軍人が、他国の行政責任者を見下すなどあってはならないし、言語道断だ。
 沖縄県民の「良き隣人になる」が、今の米軍人に課された命題である。それはほかならぬ米側が自ら口にした約束なのだ。友好を口にする一方で、「私的な内部通信」とはいえ、米軍首脳の胸の内がはっきりした、と誰もが思うだろう。メールを読む限り「誤解」の余地はない。
 政府は森喜朗首相をはじめ、橋本竜太郎氏ら関係閣僚も不快感を表した。米国防総省報道官は、一部にある「更迭要求」を退け、中将のこれまでの功績を評価している。日本政府も、これ以上問題を引きずるようなことはしない方針だ。

 だが、これで一件落着と考えない方がいい。
 まず考えられるのは海兵隊削減要求の風圧が高まることである。それと米軍への不信感の増幅だ。いずれも日米両政府に突き付けられるだろう。これらが相まって基地問題がまた噴出することだって予想される。
 沖縄県議会は先月、海兵隊の削減を求める決議を全会一致で可決した。中将の「ばか」呼ばわりは、この決議に何ら手を打たなかったことに不満をぶつけたものだ。県議会が海兵隊削減を決議したのは初めて。保革の枠を超えた決議を軽視してはならない。
 在沖縄米軍兵員数は二万八千人、うち六割強を海兵隊が占める。沖縄側が言う基地の整理・縮小は海兵隊削減と同義語だ。
 普天間飛行場の移設をめぐる対立を超えた決議は、米アジア戦略の見直しが予見されるブッシュ政権の発足と、米軍基地縮小を公然と主張する県内保守層の芽生えと無縁ではない。特に革新陣営の専売特許と言われた基地問題に、保守陣営がかかわりを始めた新しい潮流が県内に表れだしたことに注目すべきだろう。

 一方、ヘイルストン中将は、一九七二年の復帰まで「沖縄の帝王」と呼ばれた高等弁務官の記憶を県民によみがえらせたと言える。軍政運営上、必要となれば布令・布告で土地収用や住民の権利制限が可能な時代だった。沖縄戦の辛苦は、いまなお県民の記憶に残る。沖縄ならではの戦争・占領体験が息づいているのである。
 中将が言うように米軍側も県民との融和に努力し、綱紀粛正に努めてきたのは確かだ。それが評価されていないという気持ちも分からないわけではない。だが事件は続発し、綱紀粛正も空々しく響いた。加えて海兵隊への逆風が強まる状況に、海兵隊育ちの中将が業を煮やしたのだろう。それ故、内部通信の気安さもあって言葉が走り本音が出たのかもしれない。
 県議会決議は日米両政府に予想外の出来事だったし、言わずもがなのメールは決議の意味をさらに重くした。
 沖縄基地の見直しに言及する米国の知日派要人の発言に沖縄県民は敏感だ。そして新たな流れを逃がすまいとする。沖縄基地の難しさを知っているはずのヘイルストン中将は認識のずれを露呈した。そして基地問題への意識が薄れる一方の日本政府に、難問を持ち込んでしまった。

(01年2月9日付)