橋下大阪府知事】

◎型破りの闘う知事

 政治や行政に対して住民の関心が高まるのは、知事ら地方自治体の首長の目線が地域を見ていることを実感した時である。
 例えば、首長が中央政府に地元の憤懣を敢然とぶつけ一歩も退かない態度をとるようだと、間違いなく地域住民は首長を見直す。一方で、首長が当面の重要課題だとして声を大にして訴えても住民がその言葉を実感しなければ聞き流すだけで終わってしまう。
 前者は大阪府の 橋下徹知事の最近の動きであり、後者は停滞気味の地方分権改革を指している。
住民意識は、為政者が考えるほど単純ではない。ポイントは、説得力のあるなしである。

大阪府 橋下徹知事の型破りな施政は就任以来、さまざまな波紋を広げていることでも分かる。従来の知事像では予想できない言動は、行政能力を何にも増して重視し知事の資格と決め込んできた政党の考えを覆しただけではない。動きの激しさから反発(敵)も多いが、従来の政党主導の事なかれ行政に飽き足りない思いをしてきた不特定多数の有権者に、変革の期待を感じさせた意味は大きい。
 この 橋下知事が知事就任2年目を迎えて、「敵は国土交通省」と言ってのけた。国交省は国の公共事業の大半を扱う巨大事業官庁。ダム、道路、空港、港湾など国の大規模直轄事業を一手に引き受けていると言っても過言ではない。
  橋下知事がかみついたのは、直轄事業にかかわる追加負担の問題である。直轄事業といっても、事業内容によって地元負担が法律で決まっている。
 財政が厳しく府の事業は聖域なく削って府民に我慢を強いているのに、国の事業はお構いなしに追加負担を理由も説明せず一方的に求めてくることが我慢ならなかったということだ。国の言うがままにしていたら府民に顔向けができないと、国の求めをきっぱり断った。
 最終的に知事は、追加負担額を府の事業の削減率に見合った割合で削り新年度予算に組み込んだが、霞が関の官僚に与えた衝撃は大きかった。。

従来、直轄事業の追加負担は、自治体に不満があっても言われたとおり満額出するのが慣例だった。もし、追加負担に異議を挟むようなことをすれば、霞が関は他の補助事業の扱いで「必ず意地悪(報復)してくる」という。
 国との関係を全体で丸く収めるには、個別の事業で盾を突くのは割が合わない。だから、泣く泣く国の一方的な追加要求に従ってきたのが、これまでの国と地方の関係だった。
  橋下知事は、こんな慣例をぶち破った。国との関係を慮(おもんばか)る伝統的な手法の知事にはできない挑戦状を国に突きつけたのである。
  橋下知事の言動はさらにエスカレートする。
 国交省に乗り込んだ 橋下知事は金子国交相に「地方は国の奴隷になっている。奴隷解放をしてもらわないとどうしようもない」とねじ込んだ。 その勢いに押されたのか、国交省だけでなく与党も直轄事業の負担見直しを検討するようだが、ここでも知事は次期衆院選で(直轄事業負担金制度を)「廃止する政党を応援すればいい」と畳み掛けている。

 だが、族議員を多く抱える国交省が簡単に白旗を上げるとは思えない。政府、与党が 橋下知事の言い分に理解を示すのは、総選挙が念頭にあるからだ。一時的ながら、国の直轄事業の一部を地方負担ゼロにして全額国費で賄う案も浮上している。まだ09年度予算は成立していないのに、成立を見込んだ追加の補正予算で直轄事業を組み込む考えが出されている。
 支持率がどん底の麻生内閣を支える自民党としては、衆院選で「人気知事」に応援をしてもらおうと、あの手この手で地方に秋波を送っている。世界的な経済危機とはいうものの、財政事情を度外視した選挙目当ての大盤振る舞いが取り沙汰されているのである。

  橋下知事の直談判が、巧妙に政府、与党の総選挙対策に格好の材料を提供した側面もないわけではない。
  いずれにしても、地方分権問題で停滞気味の全国知事会をはじめとする地方6団体に、新しい「闘う知事」が登場したようだ。全国知事会の半数を超える行政経験の豊かな官僚OB知事には真似のできない行動である。
  橋下知事が問題提起した直轄事業負担金制度は、北陸新幹線や九州新幹線の関係自治体の「負担拒否」につながった。
 今回の問題は、追加負担金を受け入れるか否かというカネの問題だけではない。負担金廃止を地方分権推進の突破口とする、より大きな問題を提起したと考えるべきだ。

0937日)