【もう黙ってはいられない】

◎追加負担金の拒否には訳がある

【注】論説「川辺川ダム」(62)、「ダム事業見直し」(65)参照

 国の公共事業に対して物申す知事がまた現れた。大阪府の橋下徹知事と新潟県の泉田裕彦知事である。2人とも国の直轄事業の地方負担額が「一方的で納得できない」として、このままでは新年度の予算に計上できないと真正面から国に物言いをつけた。
 都道府県に限らず、地方自治体はどこもが財政難にあえいでいる。新規事業の抑制は公共事業を中心に進められており、職員の人件費の削減など経常経費の切り詰めは、4月から始まる新年度予算案の編成作業でも有無を言わせなかった。
 ところが、国が独自に進める道路やダムといった大型公共事業では、事業ごとに地元負担割合が法律で決まっている。新たな負担増があったとしても、事業を進めようとすれば、その分の地元負担を甘んじて受け入れざるをえない。
 国にとっては、地方の実情など構っていられないといった具合だ。だが、今の自治体は正直言ってそんな余裕などあるはずもない。

 そんな中で飛び出したのが、2月初めの 橋下知事の「僕の責任で2割ストップさせてもらう」発言である。
 大阪府の新年度予算で国の直轄事業は425億円の負担が必要となっているが、このうち建設事業費で2割、維持管理費は1割削減するというのが 知事の主張だ。府が単独で実施する建設事業費を既に2割削減しており、国の事業についても準じてもらうというものだ。
 自前の事業は削って、国の事業は言いなりでは府民への示しがつかない。
 一方の泉田知事の負担拒否宣言は、 橋下知事の発言の1週間後の12日。北陸新幹線建設費の追加負担は「納得できない」である。北陸新幹線は、長野新幹線の長野から金沢・白山総合車両基地を結ぶ着工区間が、新潟、長野、富山、石川の4県で総事業費15700億円の3分の1を負担することが政令で決まっている。
 ところが国は先月、建設資材の高騰などを理由に総事業費が2200億円増えて17900億円になったと追加負担を求めてきたという。うち、新潟県には200億円を割り当ててきた。ある日突然、200億円の請求書が回ってきたのである。
 泉田知事が驚いたのも無理はない。「地方財政上由々しき問題。負担金制度あり方も問題ではないか」と、臨時の記者会見で増加分の根拠を示すよう求めた。
 事業費が膨らんだから、その分を負担してくれ、と一方的に言われても自治体側は「はい、そうですか」とは言えない。一片の請求書を、事前に何の説明もなしに回されてはたまったものではない。

 国の直轄事業に都道府県が反発した例として、昨年9月、熊本県の蒲島郁夫知事が球磨川水系の川辺川ダム事業の「現行計画を白紙撤回」を求め、同11月には滋賀、京都、大阪、三重の四府県知事が、国土交通省近畿地方整備局が計画する淀川水系の大戸川ダム(滋賀県大津市)の建設に反対している。
 こうした地方自治体の国の事業に対する「反乱」は、地元の意向を十分勘案しないで霞が関が主導する大型公共事業が立ち行かなくなったことを浮き彫りにした。国と地方の関係で言えば、地方分権の流れの中で地方が突き上げた「自治の拳(こぶし)」である。
 ただ、直轄事業であっても全て国が一方的に決めているわけではない。北陸新幹線など整備新幹線については関係自治体の強い要望が、財政問題を政治的に押しのけて通った経緯があることも忘れてはならない。 橋下知事と泉田知事の主張を同列で論じられない問題はある。

 泉田知事の発言に対し国交省の春田事務次官は「詳細に説明して理解を得たい」と語っているが、例え、地元の要望が後押しした事業だと言っても、同様の問題が九州新幹線など他の整備新幹線事業に広がらないとは言い切れない。既にダム事業や無駄な道路整備に、当の地元の反発が表面化している。
 何かといえば、「地元の要望」で切り抜けてきた手法も霞が関の切り札ではなくなってきている。

 大型公共事業は、計画策定から完成までかなりの長期間を要する。
 ダム事業を例に取れば、完成まで
30−40年かかるのは当たり前だし、それでも川辺川ダムのように42年も迷走したあげく、断念に追い込まれる事例も数多い。
 総事業費が当初の約十倍の三千数百億円に上った川辺川ダム計画だけでなく、大型公共事業の事業費は工事期間に合わせるように、事業費が膨らむのが常だ。予算を極力抑えてスタートさせ、資材費、人件費などを理由に途中で事業費の上乗せすることに世論はあまり目を向けてこなかった。経費を極力押さえて世論の目を避けながら事業を動かす、行政の狡猾な手法でもあった。
 負担増を求められる自治体も、他の補助事業でしっぺ返しを食う不安から、国に真正面から物を言うことはなかった。国に公然と異を挟む知事はごくわずかしかいなかった。
 結局は権限と財源が地方にないためだが、直轄事業負担金の取り扱いは国と地方のあり方を、より具体的に問う差し迫った問題として持ち上がった。
 負担金の廃止を掲げながら、全国知事会は個別具体的な行動を取ることもなく、国について歩いてきたのではないか。

09214日)