【地域経済の悲鳴】その2

(注)【危機の現実】(09122日「エッセー・雑感」参照)

◎深刻さ増す地域の実態

 北海道の地場百貨店、丸井今井(本社・札幌市)が札幌地裁に民事再生法の適用を申請、再生手続きの開始が決定した。北海道の老舗百貨店の経営破たんは、世界規模の不況の波が流通分野に押し寄せたことを浮き彫りにした。小売業界の不振は、もちろん北海道だけではない。全国各地の百貨店は、郊外に進出した大手ショッピングセンターとの競争に加えて、昨年秋以降の不況の挟撃を受ける形で、極めて厳しい経営環境に追い込まれている。経済状況の悪化が個人消費さらに落ち込ませているわけだ。

 地域経済の落ち込みは政府の調査にもはっきり表れている。
 政府の月例経済報告(
1月)に続いて、日銀の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)でも09年度の実質国内総生産(GDP)成長率をマイナス2.0%に大幅に下方修正したし、同月末の全国財務局長会議も全都道府県の景気判断を「全国的に悪化している」と修正した。
 トヨタ自動車の集中する東海、電機メーカーが多い近畿地区の生産は「大幅に減少」だ。製造業を中心とした人員削減が進み、雇用情勢は厳しさが増しているという。
 
年明けから表面化した金融機関の経営破たんの主な事例を挙げると、1月下旬に第2地方銀行最大手の札幌北洋ホールディング(札幌市)、同じ第2地銀中堅の南日本銀行(鹿児島市)がいずれも公的資金の注入を求めた。
 銀行にとって景気低迷で不良債権が増えると、経営の健全性を示す自己資本比率が低下。その結果、銀行は「貸し渋り」に出る可能性が高くなり、経済の血液とも言われる資金が流れなくなって、企業の経営を行き詰らせてしまう。公的資金の注入は、こうした事態を未然に防ぐためのものだ。
 企業収益の見通しは日を追うごとに悪化しており、生産計画の縮小、人員整理はかつてない規模で広がっている。率直に言って、日本企業は大手が総崩れの状態で手の打ちようがない。
 ホンダのF1からの撤退、トヨタ自動車の減産、社長交代、電機業界大手の日立製作所の連結決算7000億円の赤字見通し、同東芝の三重県・四日市、岩手県・北上工場建設の着工延期など、名だたる世界企業が経済危機の渦に巻き込まれ、もがいている感である。

 ところで、政府は雇用問題の口火を切る形となった非正規社員の失職がどれくらいになると予想していたかを振り返ってみる。
 昨年暮れも押し迫った1226日厚労省が発表した集計によると、10月から今年の3月までに職を失う非正規社員は、全国で8万5000人に上る見込みだった。その1カ月前の集計だと3万人だったから、わずか1カ月で3倍近くまで膨れ上がった。
 その厚労省がこの1月末発表した失職する非正規社員数は124800人だという。昨年末の調査の15倍だ。参考までに新規採用の内定取り消しは昨年末の770人から1215人に増えた。雇用環境がこの1カ月で想像を超える悪化となったのである。
 
だが、この数字も怪しい。
 製造業への派遣・請負会社でつくる業界団体の試算だと、
3月末までに失職する非正規社員は40万人に達するという。

 内閣府は先ごろ、今の景気後退が
13カ月前に始まったと言ったが、1年前ごろまではこれまで最長だった高度経済成長期の「いざなぎ景気」を大きく上回る69カ月の「好況」を自慢していたはずだ。
 この記録を塗り替える景気は、輸出企業が空前の利益を上げる一方で、従業員の賃金は伸び悩み個人消費も上向かなかったことを誰もが感じていた。いわゆる、働き手は好況を実感できないまま、企業の史上空前の好景気の下で悶々としていたのである。

 さて、失業率である。
 総務省がつい先日発表した昨年12月の完全失業率は、季節要因を加味すると44%と、1カ月前よりも05ポイント上昇した。完全失業者数は270万人。また、厚労省によると、12月の有効求人倍率は072倍と、前月をさらに下回った。200311月以来の低い水準だった。

 「だらだらかげろう景気」(与謝野馨経済財政相)の後にやってきた米国発の100年に1度の金融・経済危機の荒波を、どうやって、いつ乗り越えることができるのか、まるで見通せない。
 政府・与党は、遅だしジャンケンの経済対策を早く通せとがなり立てている。野党は、そうは行かぬとテコでも動かぬ構えだ。麻生首相の足元は日を追うごとに弱まり、就任当初のファイティングポーズがなくなった。
 オバマ米大統領のような心に響く演説を聞きたかったが、首相の施政方針演説は官僚の作文の棒読みに終始した。代表質問では、与党から叱られながら答弁書を読む姿が、内閣の非力を表している。「100年に1度の危機」を言うなら、首相としてのメリハリを示してもらいたいものだが、それは無理だろう。1日も早い民意を問う機会が来ることを願うばかりだ。

0921日)