編集長コラム「国と地方」

◎政治と分権

 地方分権の動きを追っていると、「政治」と「経済」を切り離せないことに気づく。最近の事例で象徴的なのが、定額給付金の扱いと一般財源化される道路特定財源の使い方をめぐる内閣の迷走である。
 政治的な駆け引きで飛び出した定額給付金は、大半の自治体で所得制限をつけないで実施されることになりそうだが、3月末までの年度内に片付きそうにない。
 道路特定財源問題にしても、麻生首相がぶち上げた「地方への1兆円」は、「地方が自由に使えるカネ」から、使途を公共事業に限定した交付金とすることで決着した。
 この間、地方自治体は振り回されっぱなしだった。三位一体改革で窮地に追い込まれている自治体が、今度は米国発の金融危機でおかしくなった実体経済の渦に巻き込まれた最中での政治の迷走だから、やり場のない怒りに震えたのも無理はない。
 昨年11月19日の政府主催の全国都道府県知事会議。そして、同26日の全国町村長大会は、知事、市町村長が麻生首相らに直接憤懣をぶつける、かつてない緊張した場となった。

知事会議の発言を幾つか紹介しよう。
 「地域振興券は大失敗した。定額給付金はどれだけの景気浮揚効果があるか。所得制限を市町村に丸投げしたのは政府の責任放棄」(松沢成文・神奈川県知事)
 「首相は地方重視と言うなら、その言葉どおり対応してほしい」(野呂昭彦・三重県知事)
 「地方に医者が来ないシステムになっている」(堂本暁子・千葉県知事)
 麻生首相が「社会的常識が欠落している医者が多い」と言ったのは、この会議だ。

 全国町村長大会は、平成の大合併で大幅に会員が減り、小規模自治体では存立の淵に立たされているところも少なくない。町村の可能性と価値を評価するよう訴えるが、反応は芳しくない。
 そんな悩みを抱えた首長の集まりだからおとなしくできるはずはない。首相があいさつで、定額交付金の実施にすべての市町村の協力が不可欠だと言ったとたん、会場から「丸投げやめろ」のやじが飛んだ。こんなハプニングは初めてのことである。
 全国町村会の研究会がまとめた「『平成の合併』をめぐる実態と評価」は、平成の大合併が「地域共同社会」の取り組みの重要性を見落としていたのではないかと指摘した。そして喫緊の課題の地域再生は、この「共同社会」をいかに維持、再生するかを念頭に置くべきだと結論づけている。

 分権改革の究極の姿と言われる道州制が、政界や経済界で論じられ、独自の設計図ができている。市町村合併の検証が十分なされないまま、一足飛びに道州制論議に突き進むのは、足元を固めないままの「進軍」に似ている。
 地方分権は、閉塞社会を脱して国のあり方を描く国政、中央行政にとっても最重要な課題である。それ故、政治、行政、経済、地方団体、地域住民が重層的にかかわりあいながら取り組まなければ前進しない。
 当然のことながら、自治は与えられるものではなく、自ら勝ち取る「奪権」である。研究者としての行政学者も、政治・経済を大いに論じ闘ってほしい。

(「地域政策」09年新年号)