雑記帳

◎普天間移設問題に新たな火種

 オスプレイ事故対応のお粗末さ

 米軍の最新垂直離着陸機オスプレイの連続事故は、日米間に新たなトゲとなって普天間移設問題に影響しかねない状況になっている。4月のモロッコに続く今度の米フロリダ州にある空軍基地内で起きた墜落事故に沖縄県がいち早く反応したのは当然だが、野田政権の反応が何ともまどろっこしい。札付きオスプレイ≠ェ、沖縄にまた厄介な問題を持ち込んだ。

■対応は「コールセンター」並み

日本政府の事故問い合わせに返ってきた米政府の答えは「オスプレイの機体、安全性に問題はない」だけで、事故原因など最も知りたいことは「今年遅くになるだろう」だけだ。だから政権は普天間配備計画に影響はないとシラを切ったのだが、収まらないのは沖縄県と、普天間配備前に一時的に移駐を打診されている山口県岩国市である。
 沖縄県の仲井真知事は度重なる事故に辟易して「詳しいデータも示さないで許容できない」と語り、当然、普天間飛行場のある宜野湾市長も怒りを隠さない。
 オスプレイ配備に対する沖縄の反発は、事故が住民を巻き込む頻度が高い人口密集地に隣り合う沖縄ならではの特殊事情がある。それも、軍の作戦上は機動的かもしれないが、事故ばっかり起こしている「得体の知れない」軍用機に対する本能的な拒否反応だ。
 それで野田政権が考え出したのが山口県岩国市の米軍岩国基地に一時的に移駐して「安全性を確認」した上で沖縄に持ち込もうとしたのだが、これがいかにも野田政権らしいアリバイづくりの迷案≠セった。
 日米両政府が合意した配備時期は今夏の8月。現在の輸送ヘリコプターCH46の後継機として普天間飛行場に24機配備する計画だが、その前にいったん岩国基地に搬入して試験飛行し、8月中にも普天間に配置する予定だ。
 度重なる事故を起こしているオスプレイが、わずか2カ月足らずの試験飛行で安全性が確認できるものではない。そんな分かりきった理屈がまかり通るのが、悲しいことにこの政権の外交・安保感覚なのである。

 野田再改造内閣に入閣した森本防衛相は、安全保障問題の専門家。自他共に認める「集団安全保障論者」である。この森本氏を試すかのような今回のオスプレイ事故だった。
 森本氏は「粛々と配備計画を進める」と言い、藤村官房長官も「配備計画を見直すことはない」と語ったが、一時移駐に前向きと思われていた山口県の二井知事と岩国市長が事故に態度を硬化させると、政権は慌てふためいて「配備手続きを当分見合わせる」ことを確認。官房長官も問題の深刻さを認め、14日の会見で「事故の詳細な原因が分からない限り沖縄配備の前提となる地元説明ができない」と語った。

 配備計画の先送りは、当然といえば当然である。
 米政府の方針を丸飲みし、
沖縄県が事故多発機への不安を何度訴えても聞く耳を持たなかった野田政権だったが、こうも事故が続いたのでは配備を説得するなど、どだい無理な話である。岩国基地で試験飛行をすれば、沖縄県も配備を受け入れるだろうとの読みだったが、こんな程度のことしか思い浮かばない野田政権の問題意識のなさの表れと言っていい。
 「日米同盟の深化」をオバマ大統領に約束した野田首相にとって、オスプレイ配備は米政府の新たな国防戦略に協力する具体策なのだが、事故多発を懸念する肝心の
沖縄県民の声に対しては、米側から届いたとおり一片の事故報告書を伝えるだけだ。
 例えて言うなら、オスプレイ事故対応も「コールセンター」のごとく、米側の意向をそのまま伝えるのがこの政権の慣わしらしい。とにかく「配備」ありきで、事故原因などは配備が済んだ年末になるというズサンな米側の返事を、臆面もなく繰り返すことにそれが表れている。

■オスプレイ配備の先延ばしは必至

 オスプレイが配備される予定の普天間飛行場は周囲が一般住宅で取り囲まれ、「世界で最も危険な基地だ」と、かつて現職の米国防長官が言ったほどのいわくつきの海兵隊基地である。
 現有機が老朽化したから性能が数段上回るオスプレイを配備するというのだが、配備計画自体が明らかになっても日本側からの米側への「注文」は皆無だった。要するに、米側が何をやろうとも、文句を言わないのが防衛問題での日米関係、率直に言って、それが日米同盟の深化の実体なのである。
 日本政府の配備手続きの見直しで、オスプレイの沖縄配備はかなり先延ばしになることは避けられないだろう。となると、今度は配備を急ぎたい米側の不満が出ることは十分予想される。それが火種となって普天間移設問題がまた紛糾、「日米同盟摩擦」になるかもしれない。
 オスプレイ配備が問題になったのは最近のことではない。十数年も前から普天間への配備が話題になっていた。
沖縄県は早くからオスプレイの問題点を指摘してきたが、日本政府はあまり取り合わなかった。普天間移設問題が混迷、普天間移設の態様をどうするかが焦点となった中で、日米両政府間で具体的な詰めた論議がないままオスプレイの配備計画が具体化したのである。

今週23日(土)は、沖縄戦の全戦没者を追悼する「慰霊の日」で、野田首相も式典に参列する予定だ。首相の沖縄訪問は5月の本土復帰40周年記念式典に続くものだが、首相は当初、23日の訪問で知事に普天間飛行場の辺野古移設への協力に加えてオスプレイ配備での理解を、さらには普天間飛行場の移設先の名護市辺野古を訪問、視察する日程を検討していた。
 だが、会期末が迫った国会は混迷の度を深めており、訪問日程は流動的になっている。慰霊の日の式典参列に変更はなさそうだが、訪問スケジュールは相当切り詰められる公算が大きい。
 首相日程の短縮に反比例するように沖縄の反発は膨らむ。それが沖縄基地問題の実体である。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)