雑記帳

◎成果期待できない首相の沖縄初訪問

 米主導の「再編」で見えない日本の主張


 野田首相が26〜27日、沖縄を訪問する。在日米軍再編の日米合意を改めて仲井真知事らに説明するためだが、もちろん話の中心は米海兵隊基地、普天間飛行場の移設問題である。先の日米合意で海兵隊のグアム移転が普天間の辺野古移設と切り離されたことや、今後の沖縄の基地負担の軽減について首相の口から直接説明することになる。
 訪問を待ち受ける知事は、首相訪問に先立って先日沖縄入りした田中防衛相に、普天間の「県外移設」と普天間をこのままの状態で固定化しないよう釘をさした。
 普天間問題での対応が何度も問題となっている田中氏だけに、今回は会う人ごとに謝りどうしだった。「普天間の固定化はない」と言うには言ったが、地元の受け止めは冷めたままだ。田中氏が何と謝罪、説明しようとも、話の中身に目新しさはなかった。普天間移設問題の経緯を十分理解していないため、田中氏が語る言葉は随所にちぐはぐさが表れる。実直な田中氏だが、これ以上任にとどまるべきではないだろう。

■謝罪から始める弱み
 

 では首相訪問で沖縄側の強硬な態度に変化が表れるかと言えば、それは期待薄だ。
 先日の衆院予算委員会でも防衛相・防衛庁長官経験のある石破、額賀両氏(ともに自民)から問題の複雑さに対する認識不足と自ら先頭に立って問題解決をしようとしない政権の対応を厳しく諌められた。
 両氏ともこの問題(在日米軍再編)のロードマップ(行程表)づくりに深く携わっただけに問題点の指摘は鋭かった。両氏と首相や玄葉外相、防衛相の論議は、まさに「専門家と素人」の観があった。
 首相の沖縄訪問は、政権発足の9月以来、何度も「早期の訪問」を口にしながら政局や外交日程を理由に先送りにされた。首相就任から半年にしてようやく実現の運びとなった。問題の重要性から言って、あまりにも遅すぎた。
 そしてこの間、内閣改造前の一川防衛相の「私は素人発言」や迷走答弁、沖縄防衛局長の「犯す発言」、そして内閣改造後は「犯す発言」で更迭された後任の局長による
宜野湾市長選への「介入発言」があった。
 つまり、沖縄訪問を先送りにしている間に、普天間移設問題を複雑にする事例が続発したのである。


 この結果、首相の初訪問は沖縄に対する「謝罪」から始めざるを得なくなった。「申し訳ありません」と頭を下げて、その上で「ところで普天間移設問題は……」と切り出して今度の在日米軍再編の日米合意を説明しても、相手は心を開いて首相の言葉に耳を貸すだろうか。
 首相が知事らに説明するだろうと予想される内容は、すでにマスコミで報じられている。今さら「ここだけの話」などと「隠し球」を出せるわけもないし、元々、そんなものはあるはずもない。
 首相の訪問日程は2日間だから、この時間を可能な限り有効に使うだろう。場合によっては知事と非公式な差しの会談も想定できる。
 知事との会見は通常、地元マスコミの慣例で「公開」が原則だ。先日の防衛相と知事の会談は、防衛省の強い要望で公開は冒頭の5分間に限られ、後は非公開となった。首相と知事の会談もおそらく、同様の手法が取られるだろう。
 断っておくが、私が言う「非公式会談」は、それとは別に行われる内々の会談のことである。
 首相は知事に、それこそ「正心誠意」
沖縄県民の「基地負担の軽減」、「普天間の固定化はない」ことを約束するだろう。だが知事らのスタンスは、そのこと自体は当然のこととして、その上で「その具体化のための方策、政権の意志」を求めるはずだ。首相はそれに説得力のある話でどう答えるかである。

■問題解決の熱気がない

 私はこれまで、民主党政権の外交・安保問題のふらつきを再三指摘してきたが、最も根本的な問題は政権に普天間移設に本気で取り組んでいるという「熱気」が伝わってこないことだ。繰り返しになるが、野田首相の初訪問が首相就任から半年目という事実に端的に表れている。
 当初予定された8000人の海兵隊のグアム移転は4700人に縮小される。残りはオーストラリア、フィリピンへのローテーション配置だが、
沖縄県外の本土への移転も想定しておかなければならい。

 それと、グアムへ縮小移転される部隊の態様、移転時期、嘉手納基地以南の6施設(基地)の返還時期と内容――いずれも今後の日米交渉でどうなるか、現状では予測もつかない。
 そしてもう一つ忘れてならないのは、海兵隊の移転規模縮小に伴う日本側の費用負担だ。現状では移転規模縮小に見合った減額となるのかも分からない。財政再建を急務とする野田政権は、グアム移転に説明のつかない費用を使えないはずだし、予算の使い方次第では場合によっては、沖縄返還当時の軍用地の復元補償にまつわる「密約」の再現ともなりかねない。
 何一つ目を離せないのが、今回の在日米軍再編の中身である。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)