雑記帳

◎化けの皮が剥がれた「正心誠意」

 内閣支持率の下げ止まらない野田政権

 政権発足から100日が過ぎた野田内閣は、とうとう「不支持」が「支持」を上回ってしまった。「指導力不足」「政策が期待できない」などが理由だが、多少の不満はあっても国民が大目に見るハネムーン期間にしては、相当厳しい世論だと言っていい。
 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加推進や消費税増税といった国論が真っ二つに割れる方針・政策に世論が「ノー」を突き付け、さらに、首相が問責決議された一川防衛相、山岡国家公安委員長を擁護したことに反発した結果だった。
 特に「入るを計りて、出るを制する」基本を忘れ、国民に重い負担を求めながら国家公務員制度改革をはじめとする身内の痛みを放置したり、閣僚不適格の烙印を押された2人を続投させては国民がソッポを向くのは当然である。「正心誠意」の化けの皮がはがれたようだ。
 政権内の不統一ぶり、首相の指導力を疑わせる党幹部の言動も表れた。
 民主党の前原政調会長は都内の講演で、野党来年度予算案関連の赤字国債発行に必要な特例公債法案の審議に応じないならば、「政治も大きく変わる可能性がある」と野田首相が衆院解散に踏み切る可能性に言及した。一本気な前原氏だが、首相の解散権を持ち出すなどはこの政権の実体を表していると言える。
 前原氏は工事続行の流れが強まっている「八ツ場ダム」についても強硬に中止論を主張、内閣と党執行部の対立が浮き彫りになっている。

■法案処理もままならない国会

 報道各社の世論調査によると、野田内閣の支持率は朝日が31%、不支持が43%、読売が同42%、44%、NHKは同37%、42%、フジ・産経が同35・6%、41・9%、NNN(日本テレビ)が同35・6%、41・9%、テレビ朝日が同32・9%、41・9%といった具合だ。
 政権にとって痛いのは、内閣支持・不支持率の逆転だけではない。政党支持率も自民が18・3%、民主%は16・9%(NHK世論調査)とひっくり返ってしまったことだ。
 国会は9日閉会した。今年度第3次補正予算や復興増税法など震災復興関連は自民、公明両党の協力で成立したが、国家公務員給与引き下げ法案や郵政改革関連法案など復興財源に充当することや、連立与党の国民新党との約束である郵政改革のため首相がこだわっていた重要法案はいずれも先送りの継続審議となった。
 政府法案成立率は、年末の臨時国会としては最低の34。ねじれ国会とはいうものの、法案も満足に処理できない惨憺たる国会だった。
 国会は閉じたが、霞が関や永田町の動きが止まったわけではない。霞が関の各府省は2012年度予算編成に向けて大車輪の作業に入っている。来年度税制改正大綱が決まり、間もなく来年度の経済見通しも決定する。その上で税収の見積もりができて、不足分は今年度と同じように赤字国債の発行額が決まり、財務省原案が提示される。
 来年度予算の財務省原案は近く出されるが、消費税増税問題の成り行き次第では政府案決定は越年となる可能性も高い。

政権にとって年内に解決しなければならない一つの重要案件は、普天間飛行場の辺野古移設に関連する環境影響評価(アセスメント)の評価書沖縄県への提出である。
 アセス評価書を巡っては、更迭された前沖縄防衛局長の「犯す発言」が相変わらず政権を揺さぶっている。続投を首相から保証された一川防衛相が「(年内提出の作業は)順調に進んでいる」と言うが、受けて立つ沖縄県の仲井真知事がどう判断するかは、悲観的と言わざるをえない。
 前にも「徒然日記」(http://futenma.dtiblog.com)で指摘しているが、普天間移設問題は「犯す発言」でのっぴきならない状況に陥った。知事をはじめ、沖縄の世論は不適格な防衛相の続投の下で移設問題を論じ合う雰囲気はゼロに近い。普天間移設の法的手続きといえども、信頼関係を失った問題が事務的に進むとは考えにくい。
 よほどの高度な「政治的判断」でもあれば別だが、首相にその素振りが見えない現状では評価書提出は、一段と事態を悪化させるカードになるかもしれない。
 防衛相として省内の求心力を失っている一川氏が、懸案の処理に意欲を見せても説得力を欠くし、米政府の苛立ちが再燃することも想定しておかねばならない。

■「不退転の決意」は本音か?

 首相が問責決議された2人を更迭できない理由が党内事情にあることは言うまでもない。だが、消費税増税で野党との協議を呼び掛ける首相が、野党を怒らせる問責決議を無視したことは、野党との協議の余地を自ら断ち切ったも同じである。
 政権にとって予算編成が本格化している年末に、党内のゴタゴタをさらけ出すことは何としても避けたかった。つまりは、消費税増税の素案の取りまとめや、難航する消費税を含む社会保障と税の一体改革の党内論議の成り行き次第で、来年度予算案の年内編成ができなくなる可能性も否定できない。
 あえて野党を刺激する挙に出たのは、国会閉会で新年の
通常国会までに時間稼ぎ、どうにか事態打開ができると読んだからなのかもしれない。
 首相は国会閉会を受けて会見し、2閣僚の続投を改めて確認すると同時に、消費税増税の素案も年内に取りまとめ、来年3月末までに法案を国会提出する道筋を示し、「不退転の決意」で臨むと明言した。今さら、退却≠ネどありえないという決意を示したわけだ。
 「不退転」を語る度胸はいい。しかし、決意に行動が伴わないようだと、単なる決意表明で終わってしまう。具体的な国内対策を語らないTPP対応や普天間移設問題でも、首相は具体的に担当閣僚を呼び付けて指示したり、自ら沖縄に飛び込んで説得に乗り出したりする気配は全くない。いずれも、「不退転の決意」が求められる重要案件である。
 来年度の税制改正大綱も結局は、民主党内の減税要求に応える「理念なき妥協」(日本経済新聞11日付社説)で終わってしまった。
 この週末、日曜日の世論調査の内閣支持率下落の大きな理由は「実行力がない」「政策が期待できない」だった。若い頃からディベート(議論)の訓練はできたが、実行力という現実の政治が求める鍛錬は足らなかったと言わざるをえない。

 もう一つ野田政権の前途を懸念させる「外交」があることを忘れてはならない。
 年内の中国訪問の延期に続いて、来年
1月の通常国会前で日米両政府が調整していた野田首相の米国公式訪問が先送りになる(UPI=共同)らしい。野田首相、オバマ大統領とも年明けの日程が立て込んでいるためのようだと言われるが、今さら日程延期の理由として言えることなのか。

■石橋をたたいても渡らない

民主党政権が誕生して2年余。政治の透明性が増したことは事実だが、半面、国民は政策の不統一、閣内不一致、バラバラの党内事情など政権運営の資質が極めて疑わしい場面をいやと言うほど見せ続けられてきた。
 再三指摘しているが、それは政権に不慣れだとか、菅前首相が言っていたような「仮免政権」などと戯言(ざれごと)で済まされるものではない。政権基盤の弱さと政策遂行能力が不足する自らの弱点から国民の目を逸らそうと、「政治とカネ」を執拗に取り上げ世論を引き付けた戦術はある面では成功した。だが、政権自体の不透明な政治資金が露呈してしまっては、何をかいわんやである。
 政治主導の形骸化は、官僚主導≠フ定着を意味する。「官僚依存からの脱却」を掲げたものの、政権に懸案処理能力がなければ官僚は問題点を知りながら「何もしない」で様子見を決め込むのは当たり前だ。その結果政治主導ができなくなった政権が官僚を土俵≠ノ呼び戻して政策立案・実施に当たらせているのが現状である。
 「安全運転」を心掛けるなら「石橋をたたいて渡る」のが常道だが、野田政権は「石橋をたたくだけ」で渡らなかった。2度の所信表明演説で首相は野田流の政治理念を語った。震災復旧・復興では被災地の人たちを喜ばせるような情緒的な言葉を使ったが、対策の現状は震災から9カ月も経ったにもかかわらず、被災地を奮い立たせるものがない。
 政治家にとって「言葉は命」である。だが同時に、それには実行が伴わなければならない。世論調査に表れた「実行力がない」「政策が期待できない」を乗り越えるためには、首相の言葉に魂を入れること以外にない。

尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」