雑記帳

◎越え難い沖縄の政府不信

 説得材料が見当たらない普天間問題

 野田首相の外交デビューとなった日米首脳会談だったが、沖縄の普天間飛行場の移設問題が日米間に突き刺さった鋭いトゲ≠ナあることが、改めて浮き彫りとなった。野田首相は首脳会談の結果を踏まえて近く沖縄を訪問、仲井真知事らと会談、協力を要請する。だが、待ち構える沖縄側の強硬姿勢に変わりはない。

■苛立つ米政府の本音

 日米首脳会談でオバマ大統領が普天間移設問題で「結果」を求めたか否かで、日米間に多少の行き違いがあったようだ。
 首相は国会の予算委員会で、普天間問題解決の努力を約束したことに対して大統領が「進展を期待していると語った」と答弁、「結果」云々は「(米側の)ブリーフした方の思いではなかったのか」と新聞報道をやんわりと否定した。
 米側で日本人記者らに説明したのは普天間問題での日米交渉の一から十まで知るキャンベル国務次官補だった。
 因みに米国の大手通信社APは、このくだりを次のように伝えている。

"Both sides understand we are approaching a period where you need to see results," U.S. Assistant Secretary of State for East Asia and the Pacific, Kurt Campbell, told a news conference after the 45-minute meeting. "That was made very clear by the president."
(注)下線は筆者。

 つまり、普天間移設の日米合意が実施されるという「結果が分かる時期に来ている」ことを両首脳が分かっており、大統領はそのことを明確にしたとキャンベル国務次官補が紹介した」ということだ。
 通常、首脳会談の内容は両国政府スポークスマンが別々に説明する。その説明に微妙な違いが表れることは珍しくないが、日本人記者団は日本政府の「問題解決のために最善の努力をする」という説明よりも、日米合意が少しも進展しないことに苛立つキャンベル次官補の説明に飛びついたというのが真相と見た方がいい。
 ただ大事なのは、大統領が「結果を求める時期が来ている」と言ったとか、言わなかったとかということではない。今や普天間問題はにっちもさっちも行かない状態になっていることを日米首脳会談で浮き彫りになったと見るべきだろう。

■沖縄は強硬、政府に妙案はない

 では、どうするか。
 「合意の実施を強く迫る」米国、そして「沖縄県民の理解を得るべく全力を尽くす」日本――に接点はあるのか。
 野田首相は近く沖縄を訪問、県側への説明・協力を求める考えだ。延長国会閉幕後、そう時間を置かないで訪問することになるだろう。その地ならしとして斎藤官房副長官が27日に沖縄を訪問、仲井真知事らと会った。

 首相に沖縄説得の妙案があるわけではない。
 日米合意の経緯と先の日米首脳会談の説明、そして沖縄県民の過重な基地負担の軽減に政府として全力を挙げることを約束する。その上で、本年度で期限切れとなる沖縄振興法の延長と振興策の充実を伝える考えだ。
 政府は26日、野田政権発足後の初の沖縄政策協議会を開き、県側から要望の強かったカネの使い方を限定しない「一括交付金」を創設することを表明した。一括交付金は来年度からの新しい沖縄振興法に盛られるが、具体的な金額や制度の仕組みは予算編成の過程の中で調整される。
 一方の沖縄側はどうなのか。
 基本的には普天間の県外移設を主張ことに変わりはない。さらに普天間移設と同時並行的に計画される嘉手納基地以南の基地返還を先行実施、さらには経済振興策の充実を改めて迫るだろう。

 沖縄県が最も懸念するのは、政府が普天間問題を経済振興と絡めることだ。いわゆる、基地と振興のリンク論である。
 野田首相はリンク論を否定しているが、普天間の辺野古移設を譲らないで振興策の充実だけを獲得するような食い逃げ≠政府筋は警戒している。普天間問題が俎上に上がってから、この基地と振興策はいつもワンセットだったし、辺野古移設に反対の名護市長が誕生すると、移設促進の交付金が凍結されるなど、現実は基地と振興策のつながりを無関係だとは言いにくい。
 また一括交付金創設についても、現状では制度設計は「予算編成の過程の中で全国ベースで勘案する」としか言っていない。考えようによっては、普天間問題の動き方次第では制度の中身が変わると言えないこともない。

■政治主導を求める普天間問題

米側にすれば、両国が合意した普天間移設は、その時点から日本の国内問題という捉え方だ。それが動かないのは、日本政府の怠慢でしかない。
 「日米同盟は日本外交の基軸」と何度言ったところで、同盟が果たす抑止力を担う沖縄米軍基地が抱える様々な問題で日本政府が具体的な応えを示せないなら、同盟関係の足元は極めておぼつかない。そこに、米側の苛立ちの根っこがある。
 野田首相が普天間問題で成果を上げようとするなら、それこそ愚直に沖縄県民への説得を続けると同時に、基地負担の軽減を新たな視点・角度から米側に持ち掛けるしかない。
 野田首相の沖縄基地問題に対する熱意は不明だが、日米緊密な連携を志向するなら、両国間のトゲ≠取り除く努力を惜しんではならない。直面する普天間での対応が試金石となるだろう。

 そこで参考になるのは、日米合意の態様は今と異なるが、故橋本首相が普天間返還に示した意欲と行動である。
 橋本首相(当時)の功績は、1995年秋の米兵による少女暴行事件をきっかけに断絶した政府と沖縄県の関係を修復、関係正常化を果たしたことだ。その中で普天間飛行場の返還を取り付け、代替基地として辺野古沖合いに海上ヘリポートを造る構想を沖縄側に提示、再三沖縄を訪問して地元説得に奔走した。
 橋本氏の構想は成らなかったが、首相が問題解決に走り回った情熱は、その後の人工島方式による代替基地構想を沖縄側が受け入れ、2000年の沖縄サミット開催にこぎつけた。政治のトップリーダーの役割は何かを教えている。
 もちろん橋本氏が1人奔走したわけではない。内閣が「沖縄シフト」を敷いて、政治主導で問題に取り組んだのである。

 野田首相に橋本氏と同じ役割ができるとは思えない。政権に沖縄問題への理解が十分だとも言えない。
 そういった政治状況の中で野田政権に何ができるのか。問題解決といかなくとも前進させる選択肢を、これまでの延長線上だけで考えても答えは出てこない。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)