雑記帳

◎外交デビューで痛感した世界の現実

 米大統領、普天間で強硬に転ず

(注)本HPの「普天間事案」「ブログ」「政治と行政」「エッセー」参照
 

 野田首相の国連での外交デビューは、世界政治の現実を実感するものだった。
 首相が期待したのは、東日本大震災に対する世界各国の支援に応える日本の事故対応の説明と見通し、それに国連のスーダンでのPKO活動への日本の参加検討を知らせることだった。
 首相は原発の冷温停止を年内に繰り上げるなど事故の年内収束を約束する一方、事故調査を積極的に世界に開示する意向を強調した。
 ところが各国の反応がイマイチだった。この半年の日本の事故対応に世界が不信を持っていたからで、それが依然として払拭されていないことの表れだった。
 PKO参加もこれから内部調整を進めるという、この先どうなるか分からないからで、具体的に反応しようがない。大震災で内に籠りがちになっているのではと見られることがないよう、精いっぱい世界平和への貢献の意欲を示そうというものだったが、具体的な中身がなかった。
 だが首相を待ち構えていたのは、日本が最も頼りとする米国のストレートな物言いだった。先日もWebで問題提起した「普天間移設問題」である。

■苛立つ大統領

 野田首相を外交の場で印象付ける「フクシマ」と「PKO」は、外務省が周到に準備した本番用だったが、その舞台が始まる前に日米首脳会談で首相のデビューに水を浴びせられてしまった。
 日米首脳会談で交わされた普天間問題についてのオバマ大統領と首相のやり取りはこんなふうだった(朝日新聞22日付夕刊から引用)。

 首相「引き続き日米合意に従って協力を進めたい。沖縄の人たちの理解を得るよう全力を尽くしたい」
 大統領「結果を求める時期が近づいている」

  各紙特派員が伝えているが、米政府高官によると、大統領は会談開始後直ちに実務的な問題に入り両国間の課題を次々と取り上げたという。首脳会談にしては異例なことだ。大震災、日米同盟、普天間、世界経済、北朝鮮などなど。
 超大国とはいえ、難問山積のオバマ政権の素顔を見るような気がする。
 普天間移設については、この問題に深くかかわったキャンベル国務次官補は「大統領は結果を求める時期が近づいていることは非常に明確にした」(朝日)と語っている。
 大統領の苛立ちは、普天間問題で端的に表れたと言っていい。

 では、普天間問題について日本側はどのくらい準備を重ねてきただろうか。疑問と言わざるを得ない。
 就任したばかりの首相は、前政権からの「日米合意に沿って移設に全力を挙げる」が引き継ぎであり、しかも目標とした2014年の移設が困難と分かって消えている。
 この事実だけを捉えて、普天間飛行場の名護市辺野古への移設と、沖縄の米海兵隊のグアム移転を「今後の課題」と先送りしただけではないのか。辺野古移設を具体化する行動計画を検討しているわけではない。

 鳩山元首相が公言した、普天間の「最低でも県外移設」を裏切られた沖縄県の大多数は、今では日本政府をほとんど信用していない。もはや、経済振興というアメは通用しない。
 この現実を知っている外務、防衛両省は、問題解決とはいかなくとも、どうすれば前進するのかの知恵を持たない。米側から矢の催促があっても動くことができず、紋切り型の口上を米側に言うだけである。日米合意からの15年。普天間の移設態様は時の政治状況で変更したが、2000年の沖縄サミット以降の日本政府の対応はその繰り返しだったと言っていい。
 今回、日米首脳会談の前座≠ニして、新任の玄葉外相クリントン国務長官と会談した。
 長官と会うのが余程うれしかったのかもしれない。喜々とした破顔の外相がテレビに映し出されていたから、多くの視聴者も見たと思う。
 長官に会うのは今年3月から前原、松本両氏に次ぐ3人目の外相だ。頬は緩めていたが、厳しい表情で「日米合意」を守るよう釘を刺されている。憮然とした長官の表情がすべてを物語っていた。

■「回転ドア首相」とNYタイムズ

 オバマ大統領の就任後、日本の首相は麻生、鳩山、菅各氏に続き、野田氏が4人目。会う度に違う顔の首相がやって来る。米紙ニューヨーク・タイムズは「回転ドア首相」と皮肉っている。
 野田首相は訪米に際して、オバマ大統領との「個人的な信頼関係」をつくりたいと語った。米大統領との「個人的な信頼関係」は、このところ歴代政権の常套句となっているようだが、こうもクルクル首相が替わるようでは、「個人的−」はあったもんでもない。

 首脳同士がファーストネームで呼び合った最初は中曽根首相だった。レーガン大統領との「ロン・康(ヤス)」。橋本首相はロシアのエリツィン大統領と「ボリス・リュウ」、小泉首相とブッシュ米大統領は互いに呼び合うことはなかったが、「ジョージ・ジュン」の関係は誰もが知るところ。安倍首相もブッシュ大統領と「ジョージ・シンゾウ」と呼び合う約束をしたが、安倍内閣の短命で終わり。
 首脳同士の個人的信頼関係は、言うべくして難しい。
 野田首相の場合も外務官僚の振り付けなのだが、互いの信頼は少なくとも抱える問題を前進させてこそ形ができるものだ。言葉だけの「個人的信頼関係」などは、外交の世界では通用しない。

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 政治のリーダーに求められるのは、いつの世でも国の秩序を整え最善の施策を活用・統治すること。難しい言葉で言えば「経綸」である。
 もちろんそれは、政治理念・哲学に裏打ちされたものであることは言うまでもない。政治リーダーは常に、その任に当たる資質が求められるのは当然である。
 東日本大震災という大震災の復旧・復興を喫緊の最大の政治課題とする野田政権は、とんでもない時期に誕生してしまった。しかも政権交代から2年で、政権運営どころか、やることがバラバラの党内事情を抱えている。
 首相はノーサイドを宣言したが、喫緊の大震災の復旧・復興を巡って党内対立の火種は多い。そんな家庭内事情≠抱えながら、外交という修羅場を突き進まなければならない。
 外交デビューはしたが、首相は世界の現実の厳しさを味わった。その首相の帰国を待ち受けるのは延長国会である。世界に公約した原発事故の年内収束は、多くの支援国に対するあいさつ≠ナはすまない。
 世界の目はこれまで以上に日本に向けられることを忘れてはならない。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)