雑記帳

◎「正心誠意」を具体的に示せ

 会期延長で与野党幹事長会談へ

 所信表明といい、代表質問への答弁の時といい、野田首相のお辞儀≠ヘ上半身を45度ぐらい曲げる丁寧さだ。
 衆参両院のねじれを、嫌というほど味わって国会の正常化を約束してスタートした野田内閣だから、人一倍頭を低くして誠意を示そうという気は分からないわけではない。だが、答弁は所信の中身とは裏腹に野党の要求をはね付け、頭を低くしたお辞儀にももとる強気ぶりである。

 臨時国会は、あれよあれよどころか、あっという間に16日終わってしまう。会期はわずか4日間である。内政、外交の政治日程が立て込んでいることは分かるが、あまりにも乱暴すぎる。野党が激怒するのも当然だ。野党の強硬な申し入れで、16日に幹事長会談を開いて会期延長を決める模様だ。
 そもそも、なぜ会期が4日間だったのか、ということだ。これでは衆参両院本会議で所信表明、そして代表質問とこれに対する答弁だけで会期は終わってしまう。
 国民は野田内閣が国難の今、何をなすのかを国会論議を通じて知りたいはずだ。事前に用意された代表質問への答弁では、野田内閣の胸の内を知ることはまず無理だ。

 テレビで見ていれば分かるが、首相の答弁は官僚が用意したペーパーを読むだけで、首相の生の言葉が出てこない。
 会期が4日間となったのは、首相の言葉を借りれば「大震災の復旧・復興のための第3次補正予算案を早急にまとめなければならない」からだったが、本音は民主党の平野国対委員長が言ったように「閣僚が(答弁に)慣れていない」からである。少し勘ぐって見れば、「おかしな答弁などして野党に尻尾を捕まれては困る」からだろう。
 16日の与野党幹事長会談で会期延長が決まれば、その中で精いっぱい懸案を論議してもらいたい。

 首相は大震災の復旧・復興に最優先で取り組むと再三語っている。
 特に原発事故対応の緊急性を挙げて、「福島の再生なくして、日本の再生はない」とまで言い切っている。そのために「与野党の枠を越えて、一致協力、国難に立ち向かおうではありませんか」と所信表明演説で呼び掛けた。
 大げさな言葉を使うわけでなく、ひたすら低姿勢で野党に協力を求めたのである。
 3次補正は総額11兆円弱で調整が始まり、10月中旬の国会提出を目指しているようだ。大震災の本格的な復旧・復興の予算となる3次補正の財源をどうするかは、与野党だけでなく与党内も割れている。谷垣総裁は代表質問で首相のプロポーズをにべもなく拒否、公明党の野田内閣に対する厳しく対応も首相にとっては想定外だったかもしれない。
 野田内閣にとって、3次補正の出来不出来は政権の命運にもかかわる。
 だから、ボロ≠ェ表れないうちに補正をまとめようとしたのだろうが、野党ならずとも、この非常時に予算委員会も開かれない国会などあったもんではない。野党に協力を求め、国民の声に耳を傾ける首相の「正心誠意」にも反する許し難い暴挙となる、と谷垣総裁が怒ったのも当然だった。

野田内閣にとって内政同様、外交案件もゆるがせに出来ない。前にも指摘したが、菅内閣には「外交」といえるようなものはなかった。
 中国漁船衝突事故の処理、日朝、日韓問題、ロ大統領の北方領土訪問、さらには日米同盟のカギを握る普天間飛行場移転問題といったように、外交案件はどれ一つを取っても目が離せない。それらが事実上棚上げのまま、今日に至っている。
 さらに、世界経済もかつてない危機的状況である。EU諸国の財政危機は、域内にとどまらず世界経済を直撃している。ところが、主要先進各国は効果的な処方せんを持っていないことは、先のG7財務相・中央銀行総裁会議でも明らかだった。
 野田内閣にとっても、日米関係が外交の基軸であることに変わりはない。
 ところが、民主党政権になってから、肝心の「日米同盟」の足元が怪しくなっている。普天間問題の迷走は、普天間飛行場の「最低でも県外移転」が結局は、旧政権当時の「日米合意」の「名護市辺野古移設」に差し戻った顛末を見れば分かる。外交のイロハを忘れた日本政府の醜態をさらしただけだった。

野田首相は所信表明でも代表質問への答弁でも「新たな時代の呼び掛けに応える外交・安全保障」を挙げた。その中で、日米同盟は「世界の安定と繁栄のための公共財」とする考えに変わりはないことを強調した。
 だが、近年の日米関係を見ると、日本は「日米関係が基軸」「日米同盟の深化」をオウム返しに言っているだけではないか。そのために具体的に動いたことがあるだろうか。米政府に物申したことがあるだろうか。
 はっきりと相手に物を言わないで、「イコールパートナー」は存在しない。外交は国益のぶつかり合いである。

野田内閣には、担当分野に不慣れな閣僚が少なくない。野田首相の所信に表れた気概やよし、である。問題は、その気概を内政、外交で具体的に示すことだ。国民の多くは、民主党政権の口先政治に辟易している。スマートでなく、泥臭くていい。とにかく結果を出すことである。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)