雑記帳

◎頭低く挙党態勢でスタートしたが…

「ドジョウ内閣」を待ち受ける内政、外交の難問

 野田内閣が発足して1週間が経つ。
 「金魚」の華やかさよりも、「ドジョウ」のような泥臭さを強調して、約束どおり「挙党一致」「党内融和」を地で行くような人事をやって見せた。野党にも低姿勢であいさつし、ねじれ国会のいがみ合いを何とか避けようとする気持ちがよく表れているスタートだった。

■素早い態勢確立

 政策面では大震災の復旧・復興策を盛り込む第3次補正予算案編成に向けて増税の方針を示し、小泉政権当時の「経済財政諮問会議」を念頭に置いたような「国家戦略会議」(仮称)設置をにおわしたり、早々と日本経団連の米倉会長を訪ねるなど、政権を取り巻く環境整備≠フ布石を打っている。
 各府省の事務次官を集めて官僚の協力を求め、「官僚依存からの脱却」の方針を捨て去った。民主党政権ができて以来の政治主導が、いかにもろかったを知っているからだ。
 菅内閣の外交不在≠ノも早速、動いた。
 米国、中国、韓国3カ国首脳とさっそく電話会談、就任あいさつと今後の連携を打診するなど、動きは就任前には考えられなかったようなフットワークの良さである。
 いずれも前内閣の反省を踏まえた動きであることは確かだが、動きが早いだけに、同時に「大丈夫かな」の心配もよぎる。
 党内バラバラ。傍目にも内輪けんかとしか思われないために党内融和が、まず何よりも必要だった。
 この国難の時期に「好きだ、嫌いだなどと言っている場合ではない」と首相が党内をたしなめたのはその通りだし、前内閣当時の怨念≠いかに払拭するかがまずスタートだった。
 その意味では内閣、党役員の布陣は元代表の小沢系議員を取り込み、バランス感覚も表面的にはよくできている。瀬戸際に立たされた政権がいまさら「けんかのやり直し」などはやるまい、と誰もが思う。

政治とカネの問題を課題に振り回して世論の喝采≠得たはいいが、火の粉は前首相や反小沢の急先鋒に立った面々にも降りかかっている。それゆえ、一時の「きれいな政治」の声は聞こええなくなってしまった。
 瀬戸際の「ドジョウ内閣」には内ゲバしている余裕などあるはずもなく、その意味では、難問は多々あるが野田内閣は地道に政務をこなそうと努力するだろう。

■対立の火種はいっぱいある

だから、また党内対立が起きるなどは「要らぬ心配」かもしれないが、老婆心ながら「いやいや心配の種は尽きない」と言わせてもらう。
 また党内対立が起きるとすれば、今度はこれまでのような「感情論」ではなく「政策の善し悪し」だろう。もちろん、マニフェスト論争の再燃は十分予想される。
 感情論でなく政策論争はむしろ好ましいし前向きだが、民主党の場合はそれが割り切れるほど成長≠オていない。いろんな政党が寄せ集まってできた政権だから、考え方も違うし基盤がしっかりしていない。せっかくの政策論争が、いつのまにか「好き嫌い」に変質しないとは言いきれない。
 「10兆円強」と言われる第3次補正予算案の財源をどうするのか。臨時増税で賄うのか、建設公債を発行するのか、増税の場合は税目を何にするのかでひと悶着もふた悶着があるのは目に見えている。
 それと原発事故処理にも同程度の予算が必要とされる。すべては「財源」「財源」である。

 民主党は政策調査会を発足させ、強い権限も与えた。自民党型と全く同じ方式である。さらに党税制調査会も発足させ、重鎮の藤井元財務相を据えた。「増税シフト」を完成させたのである。
 けんかの火種は幾つもある。
 まずは東日本大震災の復興財源をどうするかである。その際、代表選を首相と争った前原元外相が会長となった政調の位置づけも注意しなければならない。
 大震災の復興策を盛り込む今年度の第3次補正予算案は「10兆円強」と想定されている。これとは別に原発事故関連で「10兆円規模」の予算が必要との見方がある。
 復興財源を所得税や法人税の臨時増税を柱とすることが当たり前のように言われるが、政権内では復興増税に慎重な意見が少なくない。安住財務相は政府・与党内の調整を早々に終えて野党と協議した上で3次補正予算案を10月中旬の国会提出を目指すと言っているが、そんな短期間で10兆円もの増税が調整できるかはなはだ疑わしい。

■内閣・党も自民党型に

 民主党政調役員会が政権交代で廃止した党税制調査会の設置を決め、会長に党重鎮の藤井元財務相を充てたのも、野田内閣の増税路線を党側からバックアップする狙いからである。政府税調会長は財務相だから、税調は「増税シフト」になるのは間違いない。
 政調復活は、政策決定を内閣に統一(一元化)する従来の民主党方式をやめて、政府提出法案を政調が了承する自民党型である。つまり、政策決定に党側の意見が色濃く反映される仕組みになった。
 加えて、政策決定に影響力を持ち元官房長官で前原会長の後見役でもある仙谷氏を、政調会長代行という新ポストを設けて就け党と霞が関ににらみを利かせた。
 自民党政権を思わせるような政調と党税調の復活は、民主党政権の変質と受け止められても反論はできない。そこに党内融和を図ろうとする野田内閣の、思わぬ落とし穴がないとは言い切れない。

 野田内閣は第3次補正予算案の編成と同時並行的に、2012年度予算案の概算要求を月内にまとめ、新年度予算編成に必要な税制改正などの作業に着手しなければならない。
 大震災対応を最優先させながら、内政の難問を処理すると同時に不安定さを増す世界経済に向き合う首脳外交の日程が続く。
 党内融和を足掛かりにしながら政策決定を迅速化させるのが、野田首相が狙う一連の人事、党機関の強化なのだが、首相の思惑通り事が進めば問題はない。しかし、国会論議が始まれば増税のあり方を含めて議論が白熱するのは避けられない。
 すでに臨時国会をめぐって熟議を求める野党は12月までの長期間の会期を求め、民主党と攻防が始まっている。基幹税を中心とした臨時増税なのか、あるいは国債発行まで踏み込むのか。復興財源問題は具体的な論議が始まれば、政権内だけでなく対野党折衝で紛糾は避けられない。その兆候はすでに表れている。

※本稿は全文、要約は「徒然日記」http://futenma.dtiblog.com

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)