【派遣切り、そして年の瀬】

◎企業城下町の悲鳴が聞こえる

 非正規雇用者の解雇が続いている。
 ほとんどの企業が決算見通しを大幅に下方修正した。政府は月例経済報告で、景気の基調判断を「悪化している」とした。景気指標は軒並み悪化している。日本の実体経済を直撃した米国発の金融恐慌は、考えていた以上に素早く、深刻な影響を広げている。
 政府もようやく重い腰を上げた。
しかし、「政局より政策」「スピード」を誇らしげにふれまくった麻生首相が打ち出した対策と言えるのは、ハローワークで解雇された労働者の相談窓口の開設と国交省が公的賃貸住宅の空き部屋を解職者用に積極的に活用するよう地方公共団体などに働き掛けたことぐらいだ。
 これだって、派遣雇用者の解雇が社会問題になって政府の無策がなじられて動き出したものだ。雇用情勢の悪化を想定して政府が早手回しに打った対策ではない。
 
 つい先日、ハローワークを視察した首相がテレビに映し出されていた。
 窓口で、職を探している
北海道から上京している男性に向き合った首相は「何をやりたいのかはっきり言わないと、雇う方も困る」と説いていた。
 こんな厳しい状況の中で、大学の就職・面接トレーニングでやるような想定問答と同じようなことをやるとは…と思って見ていたら、案の定、「そんな言い分が今通るとでも思っているのですかね」と冷ややかな街の反応があった。
 現状は、仕事を解雇された者が自分の希望を言って仕事が見つかるのだとでも首相は本気で思っているのだろうか。不況下では、何でもいいから仕事に就きたいと藁にもすがる思いで仕事を探しているのが偽らざる彼らの日常だ。そんな気持ちを少しも分かろうとしないで「自分の希望を言うべきだ」とは、温かい心が微塵も感じられないと悪評たらたらだった。
 首相は、「正論」を言ったつもりだろうが、いかにも今の状況が読めない言葉だった。
 政府の経済・生活防衛対策で、肝心の予算を伴う措置は新年5日に召集される通常国会の審議を待たねばならない。内閣を解散に追い込もうとする野党の攻勢を考えれば、法律を伴う施策は何一つすんなりと成立しそうにない。つまり、やることは決めただけで年が明けてからの先行きは全く不透明である。
 国会はクリスマスの25日、閉幕した。新年の通常国会召集までの10日余、国政は寒風の下で寝食に事欠く多くの労働者の不安を脇に置き機能停止する。

地方に目を向けて見よう。
 不況の波をもろに被るのは地域経済だ。「100年に1度の不況」と言われる状況がどう表れるかを総務省が発表した。2009年度の地方税収見通しは、08年度(当初見込み額)に比べて1割強、金額にして4兆2843億円減って36兆1860億円。減収額は過去最大で、下落率も最悪というのだ。地方税のうち都道府県税は合計で2割弱減って15兆4218億円。
 税収がこんなに減ってしまったら地方自治体はどうするつもりなのか。特に、企業城下町と言われる自治体では法人税収の激減が直撃する。
 日本最大の企業であるトヨタ自動車など自動車関連企業が集中する
愛知県豊田市は、法人市民税収は、本年度当初の十分の一、約四十億円に激減する見通しだという。
 愛知県の09年度の県税収入はマイナス3000億円になると予想されている。企業の本社が集中する東京都も例外ではない。法人事業税と法人都民税の落ち込みで過去最大の7500億円の税収減となる見通し。

 税収が減れば新規政策など無理な話。歳出を絞ってやりくりするしかない。予算編成は、かつてない苦労が伴うはずだ。人件費の削減だって避けられないかもしれない。
 地方自治体の財政運営は、標準的な財政需要に足りない分を国からの地方交付税で賄うが、自治体の交付税に対する依存度はますます大きくならざるを得ない。小泉内閣の三位一体改革で、虎の子の財源である地方交付税は大幅に削られ、地方はその復活を迫っている。財政事情が窮屈な中で交付税をめぐる国と地方の攻防は一段と激しさを増すことは間違いない。
 自治体財政を考える上で忘れてはならないのが赤字地方債だ。09年度は、財源不足を借金で賄う臨時財政対策債(赤字地方債)約5兆1500億円と08年度に比べて8割強も増え、地方債発行総額は14兆1844億円となった。
 地方債は借金である。国からの補填があるとはいえ、地方の財政の圧迫要因であることに違いはない。
 何とも、やりきれない年の瀬を迎えたものだ。

081225日)