雑記帳

2011年6月26日

◎構想会議答申の趣旨を裏切るな(ブログ)

東日本大震災復興構想会議が菅首相に答申した提言は、菅首相お気に入りのメンバーで構成しただけに、首相の「意に沿った」内容だった。提言のポイントは復興財源としての「増税」、そして被災地の復興を支援する制度として「特区導入」、さらに自然災害を防ぐというよりも被害を最小化する「減災」3点だろう。
 提言は復興財源について「臨時の増税措置として基幹税を中心に多角的な検討を速やかに行う」として所得税や法人税の増税を求めた。
 周知のように、構想会議の議論はまず「財源」からスタートしたことは、五百旗頭議長(防衛大学校長)が4月14日の初会合後の会見で増税の必要性を強調したことでも明らかだった。議長は会議メンバーや世論の反発で一旦は取り下げた感はあったが、被災地知事らの増税容認論を受けて、最終的に増税を提言に盛り込んだのである。
 2点目の「特区」は宮城県の村井知事が壊滅状態の水産県再興の切り札として求めたもので、漁業協同組合だけに認められている漁業権を開放して民間の資金と知恵を活用しようというものだ。経済界を中心にした大規模営農を巡る農業分野での規制緩和を漁業にも大胆に適用するものだが、大手資本による「市場原理」が強く働く規制緩和が漁業に相応しいかどうか激しい議論が熱を帯びている。
 民間参入が地域活力を失う形になることは、厳に慎まなければならない。地域との共存・共生の発想がもっとあるべきだった。
 3点目の「減災」は、自然災害防止に対する意識を変えるものだ。今度の大震災のマグニチュード(M)9や最大高さ10数メートルにも達した大津波に対する防備は技術的に可能としても現実的ではない。斜面を駆け上る津波は30数メートルの高さにも達する。「想定外」の災害に目をつぶるのではなく、それも念頭に置きながら、いかに被害を最小限に抑えるかという発想だ。河川の洪水を「遊水地」を造ることで勢いを抑える考えに似ている。
 提言は別に「原発事故対応」と「開かれた復興」で、原発災害やエネルギー戦略、さらには高まる世界の日本不信の払拭を目指す項目を加えた。
 原発事故に触れるかどうか議論はあったが、それを抜きにしての「復興」は説得力がないとして追加された。全体で4章で構成される提言は「被災地の人と心を一つにし、希望のあかり」を謳う「悲惨のなかの希望」を題名とした。

 提言が未曾有の大震災から立ち上がるための大きな指針、方向付けとなることは確かだ。しかし一方で、構想会議とその下部組織の「検討部会」の多彩なメンバーが自由闊達な議論を展開した結果、議論が拡散したことも否めない。構想会議と検討部会が「増税」などを巡って対立するなど役割の調整が必ずしも十分ではなかった。
 菅政権は週明けの27日に復興対策本部(本部長・菅首相)の初会合を開き、月内にも復興基本方針を策定する予定だ。基本方針は本格的な復興策を盛り込む第3次補正予算案の中で具体化されることになる。現状では第3次補正予算案は次期政権の課題とみなされているが、菅首相の退陣時期と絡むとも予想される。
 構想会議は今月に第1次提言をまとめ、年末に最終提言を首相に提出する予定だった。だが菅首相の「退陣表明」という予想もしなかった政治状況が表れたため、年末の最終答申は「事態の展開の中で考えたい」(五百旗頭議長)となり、今回が最終答申となる可能性が高い。

 今回の答申は構想会議発足から2カ月半でこぎつけた。被災地視察もあったから、限られた時間の中での会議には相当無理があっただろうことは想像に難くない。前述したようにメンバーも多彩だったから、議論の集約に困難もあった。
 だが、これは構想会議の責任ではない。
 原発事故も加わった大災害に政権が右往左往し、肝心の司令塔不在のまま「本部」「会議」が次々と設置され、互いの連携・調整がないまま、いたずらに時間だけが経過し、政治も行政も機能しなかったからだ。そうした混乱した状況の下で構想会議が発足したのである。
 答申にある個別の提言には、冒頭に挙げた3項目以外にも「高台への住居の移転」「海岸平野部の扱い」「土地利用手続き」など、差し迫った問題をどう前進させ解決するかは、地域住民の合意、地域づくりの青写真がなければ一歩も前に進まない。方向性は正しくとも、日々の生活に直結する目の前の問題を乗り越えなければならない。
 復旧・復興を巡って続く政治の混乱は救い難いが、この政治状況が直ぐに変わるわけではない。国の対応が漂流する中で、宮城、岩手両県は既に県独自の復興計画をまとめている。原発事故の対応に追われる福島県も近く計画を策定するという。

 産経新聞の「主張」(26日付)は「いち早く自立・自助の努力をしてきた被災地側に対し、政府も復興会議も、あまりにスピード感が欠如している」と批判している。
 今国会の70日延長も決まり、構想会議の答申も出た。これから政治が何をなすべきかは明らかだ。政局にうつつを抜かして永田町政治ゲームを続けている場合ではない。同志社大の浜矩子教授は26日のNHK「日曜討論」で政権の現状を嘆き、次のように厳しく切り捨てた。

 「政治はサービス産業です。政治家は『政治』とは何かを、辞書を引いて勉強するといい

 大震災で日本国民の慎み深さ、絆の強さ、緊急時にも動じない沈着冷静な国民性が見事に証明され、世界的な評価を得た。そうした優秀な国民に甘えて自己改革ができない、しようともしないのが現政権である。「政治は3流」と言われるゆえんである。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)