雑記帳

2011年6月4日

◎政治史に残る「恥ずかしい1日」(ブログ)

菅首相は、何とも言いがたい汚点を残してしまった。「後進に道を譲る」から一転して「(退陣するなどと)約束はしていない」と言うようでは、国民誰もが居直りとしか見ない。6月2日の東京・永田町は、日本の政治史に残る「恥ずかしい1日」となるのではないか。
 こんな状態では、「原発事故の処理に与野党の力を合わせて取り組む」と言っても物事は何も進まない。もうできもしないことは言うことはやめて、潔く1日も早く身を退いてもらうしかない。言い訳、弁明を繰り返してその職にとどまれば、その分だけ恥を満天下にさらすだけではない。国際的な信用も損なうことを自覚すべきだ。日本政治の奇妙な姿に世界が驚くだけでは済まない。残念だが、マーケット(市場)の「日本売り」が明確となるだろう。
 大震災で日本経済に対するマーケットの目は一段と厳しくなっている。米国の格付け会社が東京電力の評価を大きく下げたことは、東電が電力会社としてこれまでのような安定的な経営はできにくいと悲観的に見通したからだが、これはひとり東電に限ったことではない。
 「資本」という手におえない怪物が日本政治のありさまをどう見るかは説明するまでもない。政治が、不透明な経済の足を引っ張ることが確かだからである。
 1日も早い潔い決断を求めるのはそのためだ。事ここに至っては、「(退陣を)約束した、しない」などと言い合っていること自体が無意味である。首相本人にその気がないのであれば、良識ある政権の仲間たちも勇気を持って諫言すべきだ。今、その時が来たのではないか。

恥ずべき一昨日(2日)を終えても、首相は翌3日の参院予算委員会で鳩山前首相と交わした「確認書」の解釈をめぐって、野党の質問者が言う「辞任の約束」を真っ向から否定した。原発事故の処理に当たることが国民に対する責任だと、梃子でも動かない態度を変えていない。そして、前首相と合意したのは「確認書の内容」だけで、その確認書には「ひと言も(辞任という文字は)書いていない」と突っぱねている。
 それならば首相に聞きたい。政治のトップにあるものが最高の決断を求められる時に、自身の進退を明確にする文書は作らないのが政治の常識である。それを逆手に「民主党を壊さない」「自民党に政権を渡さない」「原発事故処理に当たる」などと文言が確認書のすべてだと言い張るのは、とてもじゃないが政治指導者ではない。
 トップ同士の話には機微に触れる文言を避け、代わりに口頭で約束するのが常である。
 鳩山氏に脇の甘さはあるが、代議士会で首相が挨拶、しおらしく「若い世代に継いでいただきたい」と早期の自発的退陣を色濃くにじませ、これを受ける形で鳩山氏が首相との差しの会談の中身を紹介したからこそ、野党提出の不信任案に対する民主党内の賛成の流れが否決に変わったのは間違いない。そして、この後に開かれた衆院本会議で内閣不信任決議案は大差で否決された。

話を少し前に戻せば、不信任案をめぐる党内の賛成、反対は拮抗していた。それが、月が変わった1日の午後から2日早朝にかけて流れは「賛成」に大きく傾き、官邸や党執行部が首相の条件付き辞任の方向を固め、菅・鳩山会談に臨んだのである。

3日の参院予算委員会論議は異例だった。次々と登場する野党の質問者は、質疑の冒頭から首相に「首相としての資格がない」ことを枕詞(まくらことば)にして首相の震災対応の弱さ、「辞める、辞めない」をめぐる矛盾・変節を激しく突き、最後の締めっ括りは「お辞めなさい」だった。こんな国会論議は見たことも聞いたこともない。
 それもこれも、早期退陣の意思を語りながら、夜になると一転して続投をにおわせ得意満面なのだから、「ペテン師」「うそつき」と言われても仕方がない。こんな光景を諸外国はどう見るか。前にも書いたが、ばかばかしいにも程がある内輪もめとあざけり笑っている姿が浮かぶ。
 「前言取り消し」によって、永田町の首相を見る目は大きく変わった。首相と側近の演技・奥の手に上手に乗せられ、不信任案賛成から反対に回った民主党の多くの若手議員たちは、「今さらながら」の思いでいるようだ。
 不信任案を否決された野党が民主党内の新たな亀裂を見過ごすわけはない。月内にも首相に対する問責決議案を参院に提出、さらに第二次補正予算編成、特例公債法案を使って菅退陣を迫るのは明白だ。補正予算は震災対策に欠かせないし、特例公債法案が成立しなければ本年度予算の執行はできない。がんじがらめの菅内閣のこの先は全く読めない状況になってしまったのである。

「確認書」に対する民主党の大方の意見は、首相の早期退陣を約束したものとしている。ということは、首相への対応に厳しくなったということである。党内には両院議員総会の開催を求める動きが表れている。旧民社党系グループは3日の緊急会合で、第二次補正予算案編成のめどがついた段階で首相は退陣すべきだという認識で一致した。
 加えて閣僚の中にも首相の言い分に否定的な意見が出た。
 松本龍防災相は「退陣時期は、私の頭では6月いっぱい」と語り、、松本剛明外相も「6、7、8月というのが一つの考えではないか」言っている。いずれも、鳩山氏が首相との会談で「合意した」時期が、首相の退陣の時であるということである。
 もはや、「原発事故対策に一つのめど」などと言って「早ければ(福島第一原発の冷温停止予定の)来年1月」などという首相周辺の話は誰も信じない。

 政局は、菅首相の理解し難い言動で、抜き差しならぬ段階に入った。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)