雑記帳

2011年6月2日

◎追い込まれての自発的退陣表明(ブログ)

 菅首相はかろうじて「解散権」を行使せずに野党提出の内閣不信任決議案を乗り越えた。反対293、賛成152だから表面的には菅内閣は大差で不信任案を葬ったことになる。が、首相が本会議に先立って開いた民主党の代議士会で大震災対策に「一定のめどがついた段階」で退陣する意向を明らかにしたことで、流れが変わったということである。
 解散権をちらつかせて不信任案になびきだした党内の中堅、若手を引き込もうとした首相が、自主退陣を表明せざるを得なかったのは、政権を取り巻く政治状況を考えると、解散権行使も総辞職も現実にできなかったということだ。その意味では鳩山前首相や国民新党の亀井代表が強く求めた、震災対策の流れを見定めた上での「自主的な辞任」を受け入れる以外に道はなかったと言っていい。
 つまり、首相は強気に振る舞う一方で、確実に追い込まれていたのである。

首相はこの日(2日)、代議士会に先立って与党国民新党の亀井代表と鳩山前首相会談している。その席で亀井、鳩山両氏は不信任案可決、解散という最悪の事態を避けるため、首相に自発的な辞任を求めた。
 特に鳩山氏が明らかにしたところによると、鳩山氏は首相に「震災復興基本法案の成立」と「第二次補正予算編成のめど」がついたら自発的に身を引くことを意味する確認書を示し、首相がこれを受け入れた。
 両氏との会談を受けて開かれた代議士会で、首相は大震災復旧・復興に全力を挙げて取り組んできたと強調。その上で不信任案が出されたことについて、「私は自分の地位、立場に立ってその責任をどう果たしていくかを考えて行動してきた」と振り返り、そしてこれからは@震災対策はまだまだで、全身、全霊をもって努力するA民主党を決して壊さないB今の政権を旧政権に戻さないよう対応する――と三つの行動を基本に置くと語った。
 その上で首相は「震災対策に一定のめどがつくまで私に責任を果たさせていただきたい。そのためにも野党の内閣不信任決議案に対しては一致団結して否決するようお願いする。民主党が壊れ政権が自民党に移ることがないよう、国民の理解を築き上げてもらいたい」と語った。自らの身の振り方を「一定のめどがつくまで」と明言、自主退陣の気持ちを表明したのである。
 不信任案採決には小沢元代表ら民主党の31人が欠席、小沢派の松木議員ら2人が賛成票を投じた。

震災対策に一定のめどとなる震災復興基本法案は、政権側が野党の要求をほぼ受け入れているから早期成立は可能だが、本格的な復旧・復興予算に充てられる第二次補正予算案の編成は、膨大な財源をどう工面するかで与野党の食い違いが表面化するのは間違いない。さらに最大の難関は、本年度予算の執行に欠かせない「特例公債法案」について野党は真っ向から反対の姿勢を崩していないことだ。税収を上回る借金(国債発行)に頼る本年度予算は、この法案が成立しなければまさしく絵に描いた餅でしかない。不信任案を否決されたとはいえ、野党側の攻勢はこれから逆に本格化する。
 菅政権が抱える厄介な問題は、党内対立が不信任案否決で収束するわけではないということである。
 執行部は不信任案に賛成した2議員を除籍処分とした。「確信犯」的な2議員をそのまま放置することはできなかったからだ。だが、この処分が本会議を欠席した31人の議員だけでなく、首相の「自発的退陣」を了として不信任案の否決に転換した小沢系議員を刺激することは避けられない。岡田執行部がケジメをつけたことが、少しばかり沈静化した党内に新たな火種を持ち込むことになることが、本会議からわずか数時間後に明確となった。

野党は否決されたとはいえ、不信任案提出が首相の自発的な退陣を表明を引き出したと受け止めており、これを機に政権に対する攻勢をさらに強める考えだ。自民党の石原幹事長は「一定のめどをつけるというが、当分つくはずがない。いい加減なことを言っている」と、被災地の瓦礫撤去や仮設住宅の建設がほとんど進んでいない現状を挙げている。確かに震災対策は、どれひとつを取って見ても着実に進んでいるとはとても言えない。

今後問題になるのは首相の退陣時期がいつになるのかだ。鳩山前首相は「6月中に二次補正予算のめどがつくはず」と語っており、野党案を丸呑みにした復興基本法案の早急な成立とあわせて、早めの退陣が可能だとの見方を示している。
 ただ、首相の退陣時期を巡っては岡田幹事長が同日夕、「確認書は辞任を約束したものではない」と語り、鳩山氏の解釈と全く異なる考えを示した。これについて鳩山氏は「(幹事長は)ウソをついている。人間、ウソを言ってはならない」と激しく反論した。
 首相の自発的退陣表明の意図、その時期を巡っては早くも党内の受け止め方が違っており、これに造反議員の処分問題も絡んで、民主党内は新たな対立の構図が明確となっている。
 岡田幹事長が確認書の中身で鳩山氏の解釈と違う考えを示したのは、野党側が「辞任を表明した『死に体内閣』とは話し合えない」と語っていることを念頭に置いたものとも考えられるが、首相の代議士会での表明を事実上否定することでもあり、党内対立をまたもぶり返すことは避けられない。
 本会議終了間もないタイミングで、何故岡田発言が飛び出したのか真意は不明だ。あまりにも唐突な発言と言わざるを得ない。岡田氏一流の「頑固さ」がそうさせるのか、あるいは今後の政治状況を考えての布石なのか。しかし、この発言で政局は新たな火種を抱えたことは間違いない。不思議な幹事長である。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)