雑記帳

◎浜岡原発の運転停止(ブログ)

▽「政局」を超えた論議が必要=4回続きの(4)

 「311原発事故」で首相官邸が上を下をの大騒ぎになっていたとしても、首相は米政府からの支援連絡を知らなかったはずはない。浜岡原発の万が一の事故が首都圏に及ぼす影響など考えたくもないし、在日米軍の機能を空洞化しかねない事態だって予想しないわけにはいかない。
 与党内の根回しをしないまま首相が浜岡原発の全面運転停止を求めたのは、「311」の大惨事が首都圏で再現されることの脅迫観念だったのではないか。それ故、首相は会見で当然質問が予想される他の原発の取り扱いに触れないまま浜岡原発の「危険性」対応だけで押し通した。その会見の後始末が「浜岡は特別だ」との発言だった。

中部電力は9日に開いた2回目の取締役会で、首相の原発運転停止要請を受け入れるに当たって、顧客や浜岡原発のある自治体、株主などに過度な負担を掛けないよう政府の支援を求めた。これに海江田経産相は金融面など最大限の支援を表明、地元自治体への交付金も減額しない考えで応えた。

 中部電力が浜岡原発の運転停止要請を受け入れたことで、問題が一件落着となるかと言えば、そうはなりそうにない。
 同社は浜岡原発の運転停止の穴埋めに、休止中の火力発電所の再開や他の電力会社からの支援で電力確保に全力を挙げる一方、福島原発事故で東電に融通してきた電力供給を打ち切る。同社が予測している電力需要は、浜岡の運転能力を差し引いても若干の供給余力はあるが、夏場の電力消費の動き次第では、需給が逼迫する可能性は否定できない。
 中部電力が首相の要請に従ったのは、行政の枠内で事業を行う公益事業者として当然の帰結だが、「唐突な首相要請」に疑義を呈した原発立地自治体の知事らは、今でも首相の考えに疑問を投げ掛けている。日本経団連の米倉会長も「民主党政権はいつでも最初に結論がある」と皮肉っている。
 とはいえ、菅首相は浜岡原発問題を乗り切った。反原発の世論を味方につけた巧妙な“政治”と言えるが、首相に多様な電力供給のアイデアがあるとは思えない。ただ、今度の大震災で安全・安心を売り物にしてきた「原発神話」が崩れたことは確かだ。その事実に立って首相が現実を踏まえながら電力供給システムの中に原発をどう位置づけ、さらにその安全・安心のための具体的施策をどう示すかが問題である。

 菅首相が浜岡原発運転停止要請の深層を自ら話すことはないだろう。
 前述したように会見で「国民の安全と安心を考えた。浜岡原発で重大な事故が発生した場合、日本社会全体に及ぶ甚大な影響を併せて考慮した」と語った真意は推測するしかない。「日本社会全体に及ぶ甚大な影響」が何を意味するのかを脇に置いて、政局がらみの話に持ち込む愚は避けるべきだ。
 菅首相の定見、器量を論じて今日のような政治の現状を「政局」に収れんするほど無意味なことはない。私は個人的に、首相は「首都機能の崩壊」と「日米同盟機軸」を原発事故の延長線上に捉えたと理解する。6月中にも予定される日米の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)での普天間問題扱い、その先に主要国首脳会議(サミット)が控えている。
 外交力が問われる首相だが、大震災は否応なしに国際会議での首相の存在を大きくする。それに向けた戦略のスタートを「浜岡問題」と首相が位置づけたと考えると、大震災で大きく傷ついた日本の復興に向けた再起動の出発点となるかもしれない。

とはいえ、政治の世界は先を読みにくい。菅政権が政局の渦に巻き込まれて退陣するようなことになることも頭の中に入れておかなければならない。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)