雑記帳

◎浜岡原発の運転停止(ブログ)

▽日米同盟の機能維持=4回続きの(3)

 もう一つ私が注目したのは、日米同盟の視点からの政治判断である。
 神奈川県横須賀港の米海軍施設を事実上の母港とする米海軍第7艦隊は、極東から中東に至る範囲を活動範囲とする米国の世界戦略の拠点と位置づけられている。在日米軍司令部と米第5空軍司令部が置かれる東京・横田基地は、極東地域全体の輸送中継ハブ基地としての機能を有している。いずれも、浜岡原発から200`圏内である。
 「浜岡原発事故」で、万が一、両基地が使用不能となった場合に日米同盟の戦略に深刻な影響が表れるのは想像に難くない。
 東日本大震災が発生して、在日米軍がいち早く行動を開始したことは記憶に新しい。410日の読売新聞(電子版)は米軍の動きを次のように報じている。

《大震災から一夜明け、東京電力福島第一原発の危機的状況が明らかになった3月12日午前9時前、米太平洋軍のウィラード司令官は、折木良一統合幕僚長に電話し、情報開示を求めた。
 「ワシントンから原発の情報提供を求めるよう言われた。フクシマは安全か?」
 しかし、自衛隊にも詳しい情報はなく、折木は「専門家が情報分析中だ。結果が出れば提供する」と答えるしかなかった。同日未明、1号機の格納容器圧力が異常上昇し、原子炉は危険な状態に陥っていた。ウィラードが心配したように同日午後、1号機原子炉建屋は水素爆発し、白煙が上がった。国内外に衝撃が走った。
 「米国の原子力の専門家を支援に当たらせる。首相官邸に常駐させたい」
 この日以降、ルース米駐日大使は枝野官房長官らに何度も電話をかけたが、枝野は「協力はありがたくお願いしたい。ただ、官邸の中に入るのは勘弁してほしい」と条件もつけた。》 

日本政府の要請に対する米軍の支援は人員20,000人以上,艦船約20隻,航空機約160機を投入した(最大時)大規模な活動を実施した。物資280dの提供、瓦礫撤去、不明者捜索にも当たった。「トモダチ作戦」と呼ばれる、戦時の態勢で臨んだのである。417日に来日しクリントン米国務長官は菅首相と会談し、福島第一原発事故の事態収拾に向け、日米で連携する方針を確認している。

 絵に描いたような日米同盟、連携だが、米政府の意図が単なる大震災支援だったわけではない。菅政権の危機管理能力を見定めると同時に、原発事故処理を放射能事故の処理に無縁な日本政府に任せて置けない危機意識からのものであったことは間違いない。
 と同時に米政府にとってさらなる懸念は、活断層の上に立地する中部電力の浜岡原発で、大規模な自然災害が引き金となって予想される福島原発同様の事故再発である。浜岡原発事故が起きれば、風下に位置する米第7艦隊の拠点横須賀基地は使用不能となり、横田基地機能もストップになるかもしれない。米政府がいち早く福島事故対応に乗り出したのは、そういった米軍の世界戦略上の高度な判断があったとみるべきだろう。
 朝日新聞が、内部告発サイト「ウィキリークス」が入手した日本関係の米外交公電を分析したところ、日本の原発に対する米政府の関心は対テロ攻撃が焦点で外部からの侵入攻撃に備えた警備態勢にあり、地震や津波といった自然災害ではなかった(57日付朝刊)。とはいえ、米政府が日本政府の原発政策に大きな関心を示していたことは事実だった。
 テロ、自然災害の違いはあったにしろ、米太平洋軍司令官が事故発生直後にわが国に連絡を入れ情報開示を求めてきたことは、日本の原発政策に対する不信感の表れだった。(続く)

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)