雑記帳

◎浜岡原発の運転停止(ブログ)

▽首都機能喪失への懸念=4回続きの(2)

 菅首相が言及した浜岡原発全面運転停止要請の論拠は極めて乏しい。前述したように浜岡の特殊事情を強調することで福島原発事故で巻き起こった「反原発」の世論に応えたつもりなのだろうが、中長期的視点からも電力供給システムから原発を外すことまでは考えていないことは明らかだった。それが、首相の「浜岡は特別だ」の言葉に表れている。
 では、安全対策が十分施されるまでと条件は付いているが、浜岡原発運転停止の隠された政治的思惑の背景は何かを推測して見る。
 まず念頭に置かなければならないのは浜岡原発の地理的位置である。
 遠州灘に面する静岡県御前崎市の浜岡原発を中心に円を描くと、静岡県はもとより、東京都心から神奈川、埼玉など首都圏が、さらには東海地域が200`圏にすっぽり収まる。つまり、想定される東海地震で浜岡原発が福島原発事故と同じような状況に陥った場合、首都圏と東海地域に放射性物質が広く拡散するということである。
 ここで注意したいのは、特に首都圏への影響だ。
 近年は東京一極集中は話題にものぼらなくなったが、東日本大震災の隠れた最大の教訓は、首都圏が同様の大震災に巻き込まれた場合に、日本の政治・行政・経済の中心地が機能不全になるどころか壊滅状態となる。
 1都3県の人口は3000万人を超す。その住民が避難を余儀なくされれば、その受け皿はあるのかということもある。東日本大震災の比ではない。
 「浜岡原発事故」が現実となった時に、どのような状況が現れるのか。福島原発の爆発・溶融で拡散した放射性物質が原発周辺住民を避難させ、地域経済活動に深刻な影響をもたらしたような状況が、首都圏で数十倍、あるいはそれ以上の規模で再現されるかもしれない、ということである。
 甚大な被害は避けられないが、最低限、国家としての体裁を保つ機能は残さなければならない。そうした最悪の事態を回避して首都機能を維持するためには首都機能を分散、移転するしか道はない。
 浜岡原発訴訟団によると、事故発生で風下となる神奈川、東京、埼玉、千葉に放射性物質が大量に降下するという。福島原発事故の根本的な解決がないままだと、首都圏は「フクシマ」と「ハマオカ」に挟撃されるという最悪の事態も否定できない。

 バブル経済期に東京の地価が暴騰したとき再浮上した首都機能移転だが、候補地の選定を巡って国会論議がとん挫し、いつの間にか首都機能担当相が道州制担当相に変更され、首都機能移転は政治的課題から消えた。東京の現状は、幾つもの副都心の林立する超高層ビルが示すように首都機能が一段と強化され、他自治体の追随を許さない程の威容を誇っている。
 もとより、首都機能移転がすぐさまできるものではない。あらためて首都機能移転の原点に立ち返り、一極集中を克服する道を国民レベルで問い直す時期にきている。(続く)

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)