雑記帳

2011年5月9日

◎浜岡原発の運転停止(ブログ)=4回続き

 中部電力が9日、菅首相から求められていた浜岡原発の全面運転停止を受け入れた。
 6日夜の緊急会見から丸3日で中部電力は応えた。首相の突然の会見、中部電力の臨時取締役会、首相官邸や経済産業省の慌しい動き―。この3日間はともすればわが国の電力供給システムを根幹から変えかねない、政治と官僚と民間の水面下での激しい駆け引きを繰り返しながら、どうにかゴールにたどり着いた。
 福島原発事故をきっかけに噴出したのは原発行政に対する菅政権の不信だったし、経産省と電力業界の蜜月も浮き彫りとなった。さらに悲劇は、原発の「安全神話」に慣らされた住民が避難を余儀なくされ、遠い不慣れな土地での生活を強いられたことである。原子力が約束したはずの豊かな電化生活は暗転した。
 首相会見からを振り返りながら、首相の真意はどこにあったのかを考えてみたい。

▽首相の真意が分からない=4回続きの(1)

 菅首相が緊急記者会見で、中部電力浜岡原発の全面的な運転停止要請をしたことに対する関係方面の戸惑いは、突然飛び出した首相要請のタイミングや言い分、その根拠が分かりにくいからである。さらには、運転停止によって生ずるであろう日常生活や産業活動面への影響をどうするのかといったことに、首相はほとんど言及しなかった。
 要請の真意がつかめないままあれこれ考えを巡らしていたら、首相は8日、都内の訪問先で記者団に問われて「浜岡(原発)は特別だ。浜岡以外(の運転停止)はない」と明言した。
 ならば、聞きたい。なぜ、抜き打ち的に浜岡の運転停止要請を公表した時に、その旨を話さなかったのか。国民の反響の大きさだけでなく、例によって与党内の手続きを踏まないことへの身内の異論に驚いて、「立ち話」を装って釈明したと誰もが思うだろう。

 同じような唐突な首相発言は、昨年夏の参院選での消費税増税発言もそうだった。ごく最近で言えば、福島第一原発の半径20`〜30`の住民に対する避難指示も、政府としての具体的な対応も何ら示さないままの一方的なものだった。場当たり、思いつき発言と言うより、一国の首相としての見識を自ら否定するような「不規則発言」である。
 福島原発事故で、国民は原発事故の怖さをいやというほど身にしみて分かった。そして原発に支えられ、エネルギーのことなど心配しないでオール電化のPRに乗せられた豊かな生活を当たり前とする日常への反省も生まれていた。

 「国民の皆さまに重要なお知らせがあります」で始まった6日夜の緊急会見で、首相は福島原発事故を引き合いに出して浜岡原発の全面運転停止要請を語った。
 「国民の安全と安心を考えた。浜岡原発で重大な事故が発生した場合、日本社会全体に及ぶ甚大な影響を併せて考慮した」と、その理由を強調した。
 だが、会見を聞いていて何とも解せなかったのは、首相が予想される浜岡原発の重大な事故の引き金になるとされる、マグニチュード(M)8クラスの東海地震の「発生確率は87%」を盛んに繰り返したが、浜岡以外の原発をどうするかには全く触れなかったことである。
 首相は、また「浜岡原発の安全性について様々な意見を聞いてきた」と強調したが、海江田経産相が同原発を視察したのは、会見の前日である。首相会見の地ならし、アリバイ視察と言われても反論はできない。さらに、経産相が当の中部電力へ首相要請を事前連絡したのは、会見のわずか40分前だ。
 会見に先立って首相は官邸で経産相、細野首相補佐官、仙谷官房副長官らと綿密な打ち合わせを行い、浜岡原発が活断層の上に建設され、巨大地震・津波への対策が十分でないという「特殊事情」を前面に出して運転停止要請を正当化することにした。

首相要請を受けた中部電力は急きょ、臨時取締役会を開いて協議したが、結論を持ち越した。原発を運転停止した場合の代替火力の準備が可能か、その場合の発電コストの見通し、燃料確保の可否など経営に直結する問題をさらに詰める必要があるためだ。
 中部電力が首相要請を拒否することは考えられないが、管内の東海地区は国内有数の製造業の拠点で愛知、三重、岐阜の3県のGDPは全国の約2割を占める。供給電力が減少した場合の日本経済への影響は無視できない。
 東電が実施した計画停電が事実上失敗だったことを見れば、中部管内で同じ轍を踏むことは避けるだろう。「政府は一方的に言ってくるだけ。後始末はすべてわれわれのせいにする」。東海経済界から聞こえてくる恨み節だった。(続く)

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)