雑記帳

 2011年4月19日

◎クリントン来日と東電の工程表(ブログ)

 東京電力の勝俣恒久会長が17日発表した、福島第一原子力発電所事故収束の工程表の実現性がにわかに疑わしくなっている。
 翌18日に2号機の燃料プールの水から想定外の高濃度の汚染水が検出され、初めて導入した米政府供与の遠隔操作のロボットで原子炉建屋内の高い放射線量も確認された。また同日、原子力安全・保安院は4号機の原子炉建屋地下で深さ5bの溜まり水が見つかったと発表している。

いずれも工程表発表時点では明らかになっていなかったことだが、最初の3カ月で原子炉を冷却し、次いで原子炉を安定状態に保つ冷温停止に3〜6カ月を要するとした2段階の工程表のタイミングの悪さが浮き彫りになってしまった。

 東電の工程表発表の裏に何があったのか明確ではない。しかし、政府がというよりも菅首相が東電に事故処理の見通しを早期に示すよう求めていたことは事実であり、米国が今回の事故に対する日本政府の対応、および情報不足に強い不信感を抱いていたことも間違いない。そうした状況の下でクリントン国務長官が日帰りという慌しい来日をして原発事故問題で日米協調を演出してみせたことと、東電の工程表発表が無関係だったとは言いにくい。水面下で政治の思惑が働いていたことは、容易に想像できる。

 東電の工程表はあくまで「計画」であって、事故収束の見通しが極めて「期待」に満ちていたことである。@原子炉の冷却A使用済み核燃料プールも冷却システムの構築と建物の耐震強化B増え続ける汚染水の処理・保管――などが順調に進むことが前提だ。つまり、その一つにでも支障が現れたり、想定外の問題が出てきた場合に収束計画が狂うのは避けられない。
 しかも工程表は、米政府から提供された遠隔操作ができるロボットで建屋の内部を調べた上での見通しではなかった。そして、こうした想定外の問題が早くも露呈してしまったということである。

東日本大震災から40日になんなんとする。この間、東電の事故対応は原子炉建屋の爆発、炉心溶融、放射性物質の漏れ、高濃度汚染水の流出が連続的に起き、詳細な原因がつかめないまま、場当たり的にその日暮らしの対応しか出来なかった。
 事態の悪化は、第一原発から30圏内に住む住民に対する避難・屋内避難指示となったほか、放射性物質の拡散による野菜、原乳汚染、さらには漁業の近海漁の操業中止にまで及ぶなど被害域は隣県や首都圏にまで広がった。こうした事態に直面する東電が、現段階で事故収束を想定する余裕はないし、その見通しを立てることができるとは思えない。

大震災に対する米政府の動きは素早かった。 読売新聞電子版(4月10日03時14分)は事故発生当時を振り返って「原発事故では危機管理対応の空白が浮かび上がり、米国の苛立ちを増幅させた」と次のように報じている。

  「大震災から一夜明け、東京電力福島第一原発の危機的状況が明らかになった3月12日午前9時前、米太平洋軍のウィラード司令官は、折木良一統合幕僚長に電話し、情報開示を求めた。
  「ワシントンから原発の情報提供を求めるよう言われた。フクシマは安全か?」
  しかし、自衛隊にも詳しい情報はなく、折木は「専門家が情報分析中だ。結果が出れば提供する」と答えるしかなかった。同日未明、1号機の格納容器圧力が異常上昇し、原子炉は危険な状態に陥っていた。ウィラードが心配したように同日午後、1号機原子炉建屋は水素爆発し、白煙が上がった。国内外に衝撃が走った。
  「米国の原子力の専門家を支援に当たらせる。首相官邸に常駐させたい」
 この日以降、ルース米駐日大使は枝野官房長官らに何度も電話をかけたが、枝野は「官邸の中に入るのは勘弁してほしい」と断った。

 震災発生以来、問題の重大さが分からないような日本政府の事故対応の遅さ、公表すべき情報の少なさ、協力支援申し出に対する反応の悪さに米政府は業を煮やしていることがよく分かる。

米政府は日本政府の緊急要請に対し、2万人を超える兵士と艦船約20隻,航空機約160機を投入した(最大時)大規模な「トモダチ作戦」を開始した。在日米陸・海・空・海兵の4軍を動員する、まさに武力衝突にも似た態勢だったのである。

クリントン国務長官は、こうした米側の全面支援を背景に日本に乗り込んだ。
 国務長官が原発事故に対する日米協調を演出したのは、米政府が今回の事故をいかに重視しているかを日本側に印象付けると同時に、ドナヒュー全米商工会議所会頭も同行させて、米倉日本経団連会長と連れ立って日米外相共同会見に臨んだことは、官民同士でも日米協調を演じて見せたということだ。

クリントン来日でもう一つ忘れてならないのは、沖縄・普天間問題の扱いである。
 今月末の開催で調整していた外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)は、事故対応を優先するために先送りとなったが、米4軍を動員した米側の全面支援が普天間問題を核とした日米同盟を深化させようという米国の思惑を一段と強めるのは間違いない。ということは、こう着状態となっている普天間飛行場の移設で米側の早期解決の要請がさらに強まると見なければならない。
 国内政局が緊迫化する中で、菅政権が米国との同盟関係維持と普天間問題の前進の兼ね合いをどう図るのか、極めて難しい判断を迫られることになる。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)