2011年4月16日

◎難航必至の原発事故補償(ブログ)

政府は15日、全閣僚出席の「原子力発電所事故による経済被害対応本部」で、東電福島第一原子力発電所事故の被災者への緊急支援措置をまとめ、東電に対して避難住民に賠償金の仮払いを要請した。仮払いは月内にも始まるが、原発事故収束の見通しが立たないまま始まる補償交渉は先行きが全く読めない。補償額や補償範囲をめぐって、政府、東電、自治体、住民の考えをどのように調整するか、極めて難しい判断が求められるだろう。
 さらに、仮払いでは対象となっていない、農業、漁業団体の補償要求も提示されており、補償交渉の難航は避けられない。交渉の成り行き次第では、政府の補償基準決定を待たずに政治判断が求められることがあるかもしれない。
 

仮払いは、福島第一原発から半径30`圏の避難家族4万8千世帯が対象だ。
 1世帯100万円、単身者75万円。総額500億円と見積もられている。仮払いは当座の生活補償だから、休業補償や賠償補償は入っていない。東電の賠償金は数兆円規模とも予想されるだけに、その資金手当をどうするか極めてむずかしい。

 政府は「賠償は一義的には東電」というが、政府としても東電が電力供給の義務を果たせるようしっかりとした対応が求められる。補償全体がどうなるか具体的な対象、中身、基準などは原子力損害賠償紛争審査会が指針を決め、審査会の議論と並行して賠償全体のあり方を決めることになる。

補償対象になると予想される範囲は単純でない。
 生活補償、休業補償、避難に伴う補償要求は個人個人で様々だ。生活環境の変化に伴う肉体的、精神的被害も当然補償対象と求められるはずだ。さらに、職場閉鎖による失業補償、雇用要求なども想定される。これ以外にも、まだ顕在化はしていないが、原発事故による心的外傷後ストレス障害をどう判断するか。そうした多岐にわたる補償要求等に政府と東電が具体的にどんな回答を示せるか現段階では予想も出来ない。

30`圏内での農業生産は事実上停止状態で、作物は引き取り手がないまま放置されている。30`圏外の作物も、いわゆる風評被害で納入業者が引き取らない。福島県農業協同組合(JA福島)中央会首脳らが東電本社を訪れ、清水社長に農業関連の損害について仮払い、賠償を求めている。
 隣の茨城県産野菜も放射性物質の基準を超えたため、一部の作物が出荷制限の対象となっている。

一方、茨城県漁連は先に、第一原発からの汚染水放流で漁期を迎えたコウナゴ漁を全面中止、近海漁も操業中止状態だ。沿岸業への影響は千葉・房総にも広がっており、放射性物質の検査数値が低下したとしても、離れた消費者が直ちに戻るとは限らない。

ところで、今回仮払いの対象となった第一原発から30`圏内の「計画的避難区域」は12市町村に及ぶ。
 それらの地域に住んでいた住民は、県内外に避難しており、自治体も多くが役場を移転させている状態だ。
楢葉町のように、住民の避難先のいわき市と会津美里町2カ所に役場の機能を移しているところもあり、離散状態の避難住民の把握はかなり難しいようだ。

仮払いの申請、受け取りも具体的に決まっていない。政府の原子力被災者生活支援チームは、申請は「受付は市町村の窓口、東電が直接支払う」となっているが、役場そのものが引っ越しした自治体は、日常業務だけで手いっぱいでの状態で新たな事務に対応できない、と言う。
 菅首相が陣頭指揮した住民避難で、対象となった自治体の住民は、それこそ「どこ行ったか分からない」くらい各地に分散避難しており、仮払いの対象となる住民の居所から探さなければならない。生活支援チームが言うほど、仮払いの申請と受け取りは簡単でない。

(尾形宣夫のホームページ「鎌倉日誌」)